何となくだけど、私が自転車に乗れないという弱点を思いがけずさらしてしまったから教えてくれたのかな、なんて思う。

 完璧に見える人でも、完璧じゃない部分もあれば弱点もある。

 当たり前のことなのに、彼のことを何も知らなかったくせに完璧すぎるところが苦手、なんて思ってしまっていた自分が恥ずかしい。


 「椿さんは、絵、得意ですか?」

 「いえ、めちゃくちゃ苦手です。猫を描いたつもりが、それタヌキ?って言われるレベルで」

 不意に問われ、正直に答える。

 私も昔から絵は苦手だ。子供の頃はそれでよくからかわれた。だから描いたものが伝わらない彼の気持ちはよくわかる。

 「猫がタヌキって、それはオレといい勝負かも」

 その時、ふわりと吹いた風に彼の重めの前髪が靡いて、真山さんの表情が露わになった。

 微笑みの王子の時に見せる綺麗な笑みではなく、少年のようなあどけない笑みが垣間見えて一瞬ドキッとする。

 「……そうだ、椿さん。ちょっと待ってて」

 缶ビールをテーブルに置き、「すぐ戻るから」そう言って悪戯な笑みを残して一旦屋上を出ていった彼に、私は人知れず胸を撫で下ろした。

 仕事の時とはまた違う、優しい温度の笑顔は破壊力抜群。まともに食らってしまうと心臓に悪い。