── 真山さんの付き合ってほしいところ。
それは、マンションの屋上だった。
普通は立ち入ることのできないそこに入れるのは、このマンションのオーナーが実は彼の叔父で、「悪用しなきゃ好きに活用していいよ」と、彼に屋上の合鍵を預けていたから。
在宅で仕事をこなすことも多い真山さんはたまの息抜きにここを利用するそうで、簡易的なパラソル型のシェーディングの下には、先程スーパーで買ってきたお惣菜が並べられたアウトドア用のシンプルなローテーブルと、それを挟むように同じ方向を向いて置かれたイスが二脚。例えるならプールサイドの、あんな感じだ。
そこに座って、藍色がオレンジ色を少しずつ飲み込もうとしている空を何とはなしに眺めながら、今日も在宅ワークをしていたという真山さんの息抜きに、缶ビールと共にお付き合いしている。
「真山さんの絵って、味がありますよね」
私がポケットから出して眺めていたメモに視線を移して、「〝下手〟じゃなくて〝味がある〟って言ってくれるの優しいですね」と真山さんが笑った。
「デザイナーなのに、絵、下手なんです。描いたものが何も伝わらない。でもwebデザイナーだから、絵は下手でもセーフ、なんですけどね」
言いながら缶ビール片手に真顔でセーフのポーズをする真山さんがおかしくて、私は笑ってしまった。



