「こんにちは、椿さん」

 出てきた王子は、今日もオフの姿だった。

 「あの、お、真山さん、これありがとうございました」

 いつも心の中で王子と呼んでいたから、ついうっかり王子と呼びそうになってしまって慌てて飲み込んだ。

 危ない危ない。手に握りしめていたメモを両手で差し出して、お礼を言う。

 「うん、椿さんこの前のアレ、絶対社交辞令だと思って呼びに来ないだろうなって思ったから」

 「あ、はい、社交辞令と思ってました」

 「あははっ、やっぱりね?」

 その長身の身体を屈めてイタズラっぽく顔を覗き込まれれば、ぐっ、と詰まってしまう。

 オフの姿とはいえそのかっこよさは今日も滲み出てしまっているから、そんなに近づかないでほしい。私の方は今日もでこっぱちで、眉毛以外はセルフレームのカバー力頼みなのに。
 まぁ、すでに散々オフの姿を見られているのだから今更取り繕うのも、と開き直ってしまった結果なのだけど。

 「ちなみにオレ、社交辞令とか思ってもないこととか言わない主義です」

 そんな私を気にも止めずに、真山さんはそのままクロックスを突っ掛ける。

 「……あっ、あの、今日は一人で大丈夫なので!お気遣いありがとうございましたってお礼だけ……」

 ごく自然に一緒に行こうとする真山さんに慌てて告げる。

 「うん、椿さんはね、たぶんそう言うと思ってました。だからオレも、椿さんに付き合ってほしいところがあるんです」

 「付き合ってほしいところ、ですか……?」 

 突然の申し出にぽかんとする私を見て、真山さんはとても楽しそうな笑みを浮かべた。