「── こんなに重いの持ってもらっちゃってすみませんでした」
「全然ですよ。むしろ土曜日買い出し行く時はいつでも呼んでください。自転車の代わりくらいにはなれると思います」
王子が悪戯っぽく笑う。
……どうやら、自転車ネタがお気に召してしまったらしい。
「いやいや、そんな」
王子を自転車代わりにスーパーに連れて行くなんて想像しただけで畏れ多過ぎて、私も苦笑いで答える。
「あれ、オレじゃ役不足ですか?」
「滅相もない!」
「はは!オレ四〇二号室に住んでるから。じゃあまた、椿さん」
人差し指で上を差してふ、と口角を持ち上げた王子は、私の部屋の前から再びエレベーターの方へ向かって歩き出す。
……まさか、王子が真上に住んでいたとは……。
「あっ、あのっ、本当にありがとうございました!」
その事実にびっくりしながらも彼の背中にもう一度お礼を投げかければ、くる、と首だけ振り返った王子は優しい笑みを返してくれた。
『微笑みの下に隠された素顔を見てみたいとか、私生活を覗いてみたいとか、そのくらいは思いません?』なんて言っていた昨日の梨菜ちゃんを思い出す。
ごめん、梨菜ちゃん。
特に見たいと思っていた訳じゃなかったけど、思いがけず知ってしまったよ、真山さんの素顔……。
でも、いつも隙のない完璧な微笑みを浮かべる真山さんより、こっちの真山さんの方が断然人間らしくていいと思う。何だか親近感も湧くし……。
なんて思いながらも、この時は仕事以外でこんな風に王子に関わるのはもうこれっきりだろうと思っていたのだけれど……。
「全然ですよ。むしろ土曜日買い出し行く時はいつでも呼んでください。自転車の代わりくらいにはなれると思います」
王子が悪戯っぽく笑う。
……どうやら、自転車ネタがお気に召してしまったらしい。
「いやいや、そんな」
王子を自転車代わりにスーパーに連れて行くなんて想像しただけで畏れ多過ぎて、私も苦笑いで答える。
「あれ、オレじゃ役不足ですか?」
「滅相もない!」
「はは!オレ四〇二号室に住んでるから。じゃあまた、椿さん」
人差し指で上を差してふ、と口角を持ち上げた王子は、私の部屋の前から再びエレベーターの方へ向かって歩き出す。
……まさか、王子が真上に住んでいたとは……。
「あっ、あのっ、本当にありがとうございました!」
その事実にびっくりしながらも彼の背中にもう一度お礼を投げかければ、くる、と首だけ振り返った王子は優しい笑みを返してくれた。
『微笑みの下に隠された素顔を見てみたいとか、私生活を覗いてみたいとか、そのくらいは思いません?』なんて言っていた昨日の梨菜ちゃんを思い出す。
ごめん、梨菜ちゃん。
特に見たいと思っていた訳じゃなかったけど、思いがけず知ってしまったよ、真山さんの素顔……。
でも、いつも隙のない完璧な微笑みを浮かべる真山さんより、こっちの真山さんの方が断然人間らしくていいと思う。何だか親近感も湧くし……。
なんて思いながらも、この時は仕事以外でこんな風に王子に関わるのはもうこれっきりだろうと思っていたのだけれど……。



