「いえ、これを乗り越えた後の一杯が溜まらなく幸せなので、全然頑張れます」

 「ふはっ、すごいな、ビールパワー」

 つい余計なことまで喋ってしまった私を見て、王子は可笑しそうに吹き出した。

 「でもこの量でこの距離だったら自転車、あった方が何かと便利じゃないですか?」

 「あ、自転車は……、」

 顔見知りだけど、そこまで親しくはない人と二人きりという絶妙に気まずいシチュエーションにも関わらず、微妙な空気にならずに済んだのは王子の持つ雰囲気とコミュニケーション能力のおかげだと思う。

 広報なんてやってはいるけれど、普段の私は人見知りで、本来そんなに社交的な性格ではないから。

 大して話したことのない人と二人だなんて、仕事でならともかくプライベートでは最も苦手とするシチュエーションだ。

 お互い気まずい沈黙にならないように何か話さなきゃっていうプレッシャーを感じてしまうから、無駄に疲れる。

 なのになんだろう、王子からはそんな空気を一切感じず、自然体の彼に釣られて私もなんの気負いもなく自然に喋れてしまっていて。

 だからつい、問われるがままに流れでポロッと言ってしまいそうになった。