そんなひとり絶賛混乱中の私をよそに王子は、

 「それ貸してください」

 そう言うや否や、背を向けている私からさらりと二つの荷物を奪い取ってしまった。

 「あっ、えっ、重たいですよ⁉︎」

 「ん、だからオレが持ちます」

 慌てて奪い返そうとすると当然のようにそう言ってのける。

 「いやいやっ、でも……!」

 人様に、それも取引先の王子にこんなネギのぶっ刺さった一週間分の食料とビールの入った荷物を持ってもらう訳には行かない。

 「どうせ帰る所は同じでしょう?」

 「そっ、それはそうなんですけど……!」

 「……んー、じゃあ椿さんはこれ持って」

 食い下がる私に、一旦荷物を地面に下ろした真山さんがポイッと私に放ってきたのは、スウェットパンツのポケットから出した彼のお財布だった。

 一目で上質だと分かる皮の二つ折りのお財布。

 さすが、王子は持っている小物までもオシャレでセンスがいい。

 咄嗟にキャッチしたそのお財布をついまじまじと眺めていたら、

 「それ、現金だけじゃなくて、オレの全財産引き出せるカードも入ってるので。軽いけど、重いですよ?」

 にっ、と口角を持ち上げた王子に顔を覗き込まれてしまい。

 ……あ。

 その瞬間、右目の下の泣きぼくろがよく見えて、さっきまでどうにも重なり切らなかった微笑みの王子とこの人が、ようやくちょっとだけ重なった気がした。

 そんな呆けている私をおいて、王子はそのままスタスタと歩き出す。