「重ね重ねすみません……」

 だけどぺこっ!と身体を折ってお辞儀すると、せっかく乗せてもらったパンがその反動でまたもや転がり出てしまう。

 「……椿さんって、普段はそんな感じなんですね」

 再び拾ってくれたそれを、今度はビールの入っている方のエコバッグに入れてくれながらおかしそうに笑う彼。

 私はようやくそこでハタ、と気付く。

 この人は、何で私の名前を知っているんだ?と。

 エントランスで出くわした時もすれ違い様に軽く挨拶を交わす程度で特に名乗り合ったことはないし、郵便受けにも部屋にも表札は出していない。

 それなのに、何で……?

 「……え、えっと……何で名前……?」

 「椿さんですよね?シュリーレの広報の」

 「そ、そうですけど……って、えっ⁉︎なっ、何で……⁉︎」

 ちょっと背筋がヒヤッとした、次の瞬間。

 私はもっとすごい衝撃を受けることになる。

 「ああ、これじゃ分かんないか」

 なぜなら自分の姿を見下ろしてそう言った彼がにっこりと微笑み、その綺麗に弧を描いた唇から驚きのセリフを吐き出したから。