── その二十分後、私は一週間分の食料がパンパンに詰まった大きめのエコバッグを右手に、ビール六缶入りの入った小さめのエコバッグを左手にスーパーを出て、復路十分の道のりをヨタヨタと歩き出した。

 ちょっと買い過ぎたかなぁ……。腕が既に千切れそう。


 「……椿さん」


 とりあえずこれ頑張って持って帰ったら、単品で一本買ってきた冷えてるビール飲もーっと。まぁ帰る頃にはちょっと温くなってるかもだけど、冷蔵庫でスタンバイしてるビアカップに注いで飲めば大丈夫。 ああ、早く飲みたいな。


 「……椿さん」

 「っうわ⁉︎はっ、はい⁉︎」


 頭の中がビール一色になっていた所に突然後ろから名前を呼ばれた私の肩は、大袈裟なくらい大きく跳ねた。そしてその勢いのままに、反射的に返事をして振り返ってしまう。

 すると、そこにいたのは何と、昨日マンションのエントランスでも会った、モサーっとした髪に黒縁メガネの彼。

 「すみません、驚かせるつもりじゃなかったんですけど、これ、落としたので」

 差し出されたものを見ると、それはパンパンのエコバッグの一番上に乗せていたはずの菓子パンだった。歩き出した拍子にぽろっと落ちてしまったらしい。

 「あっ、こちらこそすみません!ありがとうございます」

 慌てて受け取ろうとしたけれど両手が塞がっていることに気付き、一旦荷物を地面に置こうとしたら彼がエコバッグの上にちょこん、とそれを乗せてくれた。