桐君はお兄ちゃんじゃない

 ……っ!

 でも、「ごめんね」と言った気がした、切なく消えそうな綾瀬君の声に、一度だけ振り返りたくなりました。

 まあ、それでも振り返る勇気はなかったんですが……情けない。

  *****

 家に帰った瞬間、勢いよく鍵を閉めた私。

 怖かったです……。

 男の人も怖かったのですが、何より、あの綾瀬君の冷たい瞳が……。

 お、思い出すだけで、背筋が凍りそうです……。


 と、とにかく……やっぱり、綾瀬君は関わらない方がいい人物だったということです……!


 お母さんが帰ってくる前に、ご飯作り終わらないといけません……。
 はあ……醤油、買えなかったから……どうしましょう。

 暗い気持ちになりながらも、手を動かします。

 そういえば、お母さんのお相手の人が来るの、今週末だったっけ?
 お母さんが、私の手料理食べさせてあげたいって言ってたな……。
 お母さんが好きな、オムライスでも作ろうかな。
 お母さんの誕生日に籍入れるって、言ってたっけ?

 お母さんのことを考えていると、気持ちが落ち着く気がしました。

 その度に、あのお母さんの顔がちらつくけど……お母さんの幸せが、一番ですから……。