桐君はお兄ちゃんじゃない

 なぜでしょう。

 何で、私が【桐君】と呼んだだけで、そんなに嬉しそうなんでしょう?

 可愛いんですが……。


「では、私は隣の部屋にいますので。また助けが必要な時は、言ってくださいね?」

「はーい……」


 サラサラの黒髪を揺らしながら、切れ長の目でジーと見上げてきた綾瀬……桐君。

 あー……ダメですね。これは……。

 今度は、ゆっくりドアを閉めて、部屋を出ました。

 やっぱり、今日の桐君は、可愛すぎます。

 これは、桐君の可愛さ中毒になりかねません……。

 気をつけねば……。



 その時の私は、気づいていませんでした。

 【可愛さ中毒】になっていたのは、私だけではなかったと。

 そして、この穏やかな日々は、嵐の前の静けさであったと……。