夏休みになるとあいつはバイクに乗ってた。 気取るわけでもなかったけど時々は港で飛ばしていたらしい。
それを見付けて暴走族の連中が追い掛けてきたことが有ったっけなあ。 うざいやつらだぜ。
 茂之は何とも思わなかったらしいけどな。 だってさあ、カーブで振り切ったら付いてこれなかったって言うんだから。
しかしまあ、あいつもよくやるよなあ。 山も走ってたっけ。
「お前もどうだ?」って誘われたけど、俺はこの通り自由奔放だから二つ返事で断った。
「面白くねえやつだなあ。」 「いいだろう? 興味もくそも無いんだから。」
「冷めてるんだなあ。」 「冷めてんじゃなくて嵌りたくないだけだよ。」
「なあんだ。 そうか。」 そう言うと茂之はまたエンジンを吹かして走り去っていった。
 特に気に入るような女も居ないし気に入られるようなこともしなかった。 天涯孤独って感じで突っ走ってたよな。
彼女の一人くらい居ても良さそうだったけどなあ。 「勝手に惚れてくれたらいいんだ。 俺は知らねえよ。」
高校生にしては大人びてるというのか冷めてるというのか、、、。 バイクに乗るとあいつはいつもそうだった。
 秋になると決まって山を走り回った。 少しずつ寒くなってくる景色を見るのが好きだって。
でもさ、帰ってくるとうちの母さんが用意した焼き芋を頬張るんだ。 「これ美味いなあ。 美味いなあ。」って言いながらね。
 俺も一緒に頬張ったよ 焼き芋を。 でもこれからはお前とは食べれないんだなあ。
早過ぎるぜ 茂之。

 ぼんやりと遠くに目をやる。
日曜日には港のほうにも行っていたらしい。
沖のほうから太陽が昇ってくるのをじっと見てたんだって。
 それで詩でも書くのかと思ったらただ見ているだけだった。
「いいじゃねえか。 太陽が昇ってくるのを見てるのが好きなんだから。」
「お前は何処からどう見ても変なやつだ。」
「ああ。 俺は変だよ。」
そう言ってバイクを吹かすんだ。 飾ることもしないやつだった。
 この丘もあいつとよく来たんだ。 ただただボーっとするためだけにね。
「見えるか? 茂之。 卒業したぜ。」
今でも俺の隣にあいつが居るような気がする。
いつものように照れ笑いを浮かべてね。