あいつの実家は果物屋さんだった。 だからかな、俺の誕生日にバナナを持ってきたのは。
「病人の見舞いみたいだな。」って言ったら「そりゃねえよ。 お前の誕生日のお祝いなのに。」って膨れてたっけ。
 母さんは真面目な人だった。 必死になって働いてたっけ。
それなもんだからあいつも「高校を出たら働くんだ。」っていつも言ってた。
 人生、何が起きるか分からねえな。 卒業する日を母さんも楽しみにしてたのに。

 それでまあ俺たちは誰よりも仲良くなったわけね。 部活以外はずっと一緒だった。
ああ、俺は部活なんて何もやらなかった。 やる気が起きなくてさ。
 野球部だと甲子園甲子園って周りがうるさいし、柔道部だと世界だオリンピックだってうるさいし、、、。
だから万年帰宅部で通したわけ。 茂之は水泳部だった。
しかも試合が目当てじゃなくて泳ぎたいから入ったんだって。 変わってるよな。
おかげで3年間 本当に試合には出なかったんだ。
だからこちらから言わないと水泳部に入ってることすら誰も知らなかったわけ。
そんなあいつが逝ってしまった。 今頃 何をしてるんだろうなあ?
 雲が流れてる。 雨でも降るのかな?
そういえば雨の日もここでぼんやりしてたんだっけ。 飽きもしないでボーっとしてた。
 時々、車が水溜まりを跳ねていく。 「きたねえな。 ちきしょう。」
文句を言いながら場所を移動する。 そしてまたボーっと港の辺りを見詰めている。
何を考えていたんだろう? 何も考えていなかったように思う。
とにかくボーっとして頭の中を空にするんだ。 夕日が沈んだら何事も無かったように家に帰ればいい。
俺もあいつも型に嵌められるのが大嫌いの大嫌いで先生たちにはいつも文句ばかり言われてたよな。
性分だから仕方ないのにさあ。 誰も分かってくれないんだよ。
 放課後のプールで泳いでるあいつを何度か見掛けたことが有る。 一心不乱ってのはああいう姿を言うんだろうなあ。
顧問は一生懸命に指導してるのにあいつはのんびりと泳いでるんだ。 背泳ぎが得意だって言ってたっけな。
 俺か? 俺は水の中で歩き回ってるだけだ。
たまに泳ぐとみんながびっくりするからさあ。 あんまり泳がないんだよ。
 先生にはそのたびに「サボるな!」って吠えられたもんだ。
いろいろ思い出すなあ。