赤ずきんの狼くん、その怒濤の一日!!

 「あ!パパ様、あんなところにきれいなお花畑がありますよ。おばあちゃんのお見舞いに、花を摘んで行きませんか?」

 前を歩いていた狼が、森が開けた日当たりのよい場所に、色とりどりの花が咲く広場を指差した。

 「そうだな、摘んでくれたまえ、狼くん」

 「え?ボクが?」

 「当然だ。私が夢中で花摘みをしている隙をついて襲うつもりだろうが、そうはさせん!私の後ろに立つな。常に前にいろ」

 「……何だかボクが、パパ様に襲いかかられそうなんですが……」

 パパが切り株に腰を下ろすと、狼くんはぶつくさ言いながらも、せっせとお花を摘み始めた。

 「そうして花を摘んでいる狼くんの姿を眺めていると赤ずきんちゃんを思い出すよ……。あの子も花が大好きでな。うんと幼い頃は、親子でピクニックに行ったり紅葉狩りに行ったりイノシシ狩りに行ったりしたものだが……。最近は私も仕事にかまけて家事の一切を赤ずきんちゃんに任せきりにしてしまって……。そう言えば、まだ12歳なのに『最近何だか疲れが溜まって』を連発してたな。家を出る前に、お肌が荒れてニキビが出来たって、嘆いていたがまさかそれが家出の原因か……?」

 「ニキビは生活リズムの乱れやストレスが原因と言われてますからね。パパ様が赤ずきんちゃんのストレスなのでは?」

 「従順そうな顔をして結構、父親の臓腑をえぐることを言うね、狼くん」

 「あの!仕込み杖を逆手に持って今にも抜こうとしないでください!とにかく、立ち上がらないで切り株に座ってください!そ、そう言えば、パパ様のお仕事って、何ですか?」

 摘んだ花で花束と花冠を作っていた狼くんは、話題を変えてパパを落ち着かせることにした。

 「見てわからないかね?」

 「お花屋さんかお菓子屋さんですか?」

 フリル付きの可愛い前掛けに赤ずきん姿のパパ。

 狼くんは服装から何となく連想して答えたが、パパの返答は狼くんの予想の斜め前を行った。

 「いや、賞金稼ぎだ」

 「え???」

 「害獣駆除専門の賞金稼ぎだ。そう言えば、この辺り一帯を荒らし回る悪い狼に多額の賞金がかけられていたが、やはり君は、賞金首の例の悪い狼……か――――?」

 「ヒィィ!?そんな旅先で、久々に好敵手に出会った居合いの達人みたいな、キラリと光る涼しい眼差しで見つめないで!さっきも言いましたよね!?ボクは良い狼くんです!ささ!おばあちゃんの家までは、もうちょっとですよ!」

 身の危険を感じた狼くんは、作っていた花冠を自分の頭にかぶると、パッと立ち上がって急いで歩き出した。