あの日、空き教室で先輩のキャラ弁を見てから、私の昼休みの過ごし方は一変した。

友達の佳奈とのランチを早めに切り上げ、柊木先輩がいる空き教室をこっそりと覗くのが、私だけの密かな時間になっていた。

空き教室の扉から少し離れた、廊下の隅に立つ。

先輩に気づかれないようそっと近づき、壁に身を隠しながら中を覗きこむ。

静寂に包まれた廊下で、自分の心臓がドクンと大きく鳴るのが分かった。

先輩は今日も廊下側の席に座り、ひとり静かに本を読んでいる。

ああ……先輩、相変わらずかっこいいな。

彼の完璧な横顔を瞳に焼きつけているだけで、胸の奥がぽかぽかと温かくなる。

しばらくして、読書を終えた彼が机の上に置いてあったお弁当箱の蓋を開けた。

「あっ」

先輩が毎日持ってくるお弁当は、やはり私が好きなアニメ『魔法少女ルナ☆ルナ』のキャラクターだった。

やっぱり先輩も、私と同じアニメが好きなのかもしれない。

日によってお弁当に登場するキャラクターは違うものの、その再現度はどれも驚くほどの出来栄えだ。

「ふふ。今日のキャラ弁は、ルナの友達のリアちゃんかぁ」

私はノートの端に、その日の先輩のキャラ弁のスケッチをするのが、ひそかな楽しみになっていた。

美術部に所属している私にとって、それは一種の息抜きのようなものだった。

ツインテールのルナ、クールなライバルキャラ、はたまたマスコットキャラクターまで。

彼のキャラ弁は、まるで小さな芸術品のようだった。


それから数日後の昼休み。

私はいつものように、空き教室の扉の隙間からそっと中を覗き込んだ。

「あれ?」

すると、窓からの光で照らされたお弁当箱が、いつもと少し様子が違っていることに、なんとなく気づいた。