放課後。

私はどうしても柊木先輩のことが気になって、自然と家庭科室に足が向いていた。

廊下を歩いている途中、毎日空き教室でお弁当を食べている彼の姿が頭をよぎる。

もしかしたら、彼は料理の練習をするために、道具が揃った家庭科室にいるのではないか。

そんな、根拠のない確信が私を突き動かした。

家庭科室の前にたどり着くと、扉が少しだけ開いていた。

遠慮がちに扉の隙間から中を覗くと、そこにはやはり柊木先輩が一人でいた。

「はぁ……」

夕方の柔らかなオレンジ色の光が差し込む中で、彼は焦げついてしまった卵焼きを前に、深い溜息をついていた。

その背中からは、普段の彼からは想像もできないほどの孤独と悔しさが滲んでいるように見える。

やっぱり、このまま放っておけない。そんな強い思いが、私を突き動かした。

意を決し、家庭科室の扉をそっと開く。

「あの、柊木先輩……!」

「……稲葉?」

その声に、私は息をのんだ。彼の口から私の苗字が飛び出したことに、心臓がどくどくと高鳴る。

憧れで、遠い存在だった「柊木先輩」が、たしかに私の名前を呼んだのだ。

まさか、先輩が私のことを知ってくれていたなんて……。