5月。初夏のやわらかな陽射しが、校舎の窓からまぶしく差し込んでいる。
窓の外の新緑が風に揺れ、その涼やかな空気が教室を満たしていく。
キーンコーン……
昼休み開始のチャイムが鳴り響き、ざわめき始めた教室で、私はぼんやりと窓の外を眺めている。
高校2年生になったばかりの私、稲葉優衣は、クラスには馴染めていても、どこか上の空だった。
私の手元にあるのは、大好きなアニメ『魔法少女ルナ☆ルナ』の主人公・ルナがプリントされた、市販のキャラクターパン。
このアニメは、見た目の可愛らしさとは裏腹に、主人公が悩みや葛藤を抱えながらも前向きに成長していくストーリーが、私の心を掴んで離さない。
「優衣、そのパン美味しそうだね」
友達の佳奈が、私の手元を覗き込みながら話しかけてくる。
「うん! このルナのイラスト、見るだけで元気が出るんだよね」
そう答えて、私はパンを一口かじる。ルナの愛らしい笑顔を見ているだけで、心が満たされていくようだった。
パンを食べ終え、午後の授業に備えて教室を出ると、廊下は女子生徒たちの楽しそうな声で賑わっていた。
「あっ、怜央先輩だ」
上擦った声が聞こえ、その視線の先を追う。
ひとつ上の3年生で、生徒会長の柊木怜央先輩が、生徒会室から姿を現した。



