「どうしたの、和咲」
「ううん、ちょっと気になっただけ」
「ランキングのこと?」
「そう。怖いもの見たさっていうのかな」
安藤さんがランキングの結果を気にしているというのは、心底意外だった。ああいう清楚系で優等生タイプの子は、男子のちょっとした遊びなどには気にも留めないと思っていたからだ。
僕はようやく教科書や筆箱を鞄に詰め終わり、紐を肩にかけた。これから陸上部の練習がある。あまり遅くなれば大会前でピリピリしている先輩たちの神経を刺激しかねない。
振り返って、彼女たちの方を見た。畑中さんは帰り支度を始めていた。安藤さんの横顔が、美しい曲線を描く。彼女の目が、廊下側の一番後ろの席に向いているのを僕は見逃さなかった。
その席が、親友の矢部浩人の席であることが、僕の胸をいくらか締め付けていた。
幻想だ。僕の。妄想にすぎない。
……と、頭では思っているものの、準備体操をしながら、筋トレをしながら、短距離を走りながら、脳裏に浮かぶのは、彼女の横顔だけだった。
聞かなくても分かる。あの顔は間違いなく、恋をしている顔だ。
ずっと気になってはいた。自分が好きだと思う人の好きな人のことを。でも同時に、知りたくない気持ちもあった。
「くっ……」
クラウチングスタートを切った瞬間思い知る。
僕はもう、あのランキングのことも安藤さんの横顔も頭の片隅に追いやることはできない。
いつもこの走っている最中は頭の中を空っぽにするのに。腱が伸びるのを感じながら、地面を蹴る感触に浸りながら、一番速くゴールまでたどり着ける方法を探すだけなのに。
今日は、いろんな邪念が僕の足をひっぱているように、速く進むことができない。
ゴールテープがとても遠くに感じられる。
僕が手を伸ばして掴みたい君は、親友に恋をしている。
「ううん、ちょっと気になっただけ」
「ランキングのこと?」
「そう。怖いもの見たさっていうのかな」
安藤さんがランキングの結果を気にしているというのは、心底意外だった。ああいう清楚系で優等生タイプの子は、男子のちょっとした遊びなどには気にも留めないと思っていたからだ。
僕はようやく教科書や筆箱を鞄に詰め終わり、紐を肩にかけた。これから陸上部の練習がある。あまり遅くなれば大会前でピリピリしている先輩たちの神経を刺激しかねない。
振り返って、彼女たちの方を見た。畑中さんは帰り支度を始めていた。安藤さんの横顔が、美しい曲線を描く。彼女の目が、廊下側の一番後ろの席に向いているのを僕は見逃さなかった。
その席が、親友の矢部浩人の席であることが、僕の胸をいくらか締め付けていた。
幻想だ。僕の。妄想にすぎない。
……と、頭では思っているものの、準備体操をしながら、筋トレをしながら、短距離を走りながら、脳裏に浮かぶのは、彼女の横顔だけだった。
聞かなくても分かる。あの顔は間違いなく、恋をしている顔だ。
ずっと気になってはいた。自分が好きだと思う人の好きな人のことを。でも同時に、知りたくない気持ちもあった。
「くっ……」
クラウチングスタートを切った瞬間思い知る。
僕はもう、あのランキングのことも安藤さんの横顔も頭の片隅に追いやることはできない。
いつもこの走っている最中は頭の中を空っぽにするのに。腱が伸びるのを感じながら、地面を蹴る感触に浸りながら、一番速くゴールまでたどり着ける方法を探すだけなのに。
今日は、いろんな邪念が僕の足をひっぱているように、速く進むことができない。
ゴールテープがとても遠くに感じられる。
僕が手を伸ばして掴みたい君は、親友に恋をしている。



