最短距離

「だーかーらー、女子のランキングだよ。うちのクラスの。かわいい女子ランキング」

「かわいい女子ランキング」

 彼の言うことについていくのに必死で、オウム返しすることしかできない。コミュニケーションが苦手な人間の特徴そのものだ。そんな僕に、宮沢は特にイラつく様子もなく、あっけらかんとした口調で教えてくれた。

「そう。クラスの女子の中で、かわいいと思う人に票を入れて回してくれ。もちろん、男子だけだぞ。一人3票まである」

 それだけ言うと、宮沢はクールダウンして自分の席についた。もう説明はしないという態度だ。もともとそんなに仲が良いわけでもないので、僕もこれ以上何か返す気にもなれなかった。

「くだらねえなあ」

 と思ったものの、実際に口に出したりはしない。学校社会において誰かを敵に回すような発言はNGだ。
 隠しきれないため息を吐きつつ、周りを見回す。特に、自分のことを見ているような輩はいない。
 ならばあまり神経質にならずに、適当に投票すれば良いだけだと、シャーペンを持ち、女子だけの名簿に「正」の線を入れた。
 一つは安藤さんに、もう一つは畑中さんに、最後は足立さんに。
 適当に、と思った割りにしっかりと片想いをしている相手に票を入れてしまうのだから、僕も他の男子にあれこれ言えやしない。

 正の字を書いたとたん、急に教室の中がざわざわと音を立て始めた。いや、むしろ投票している際に、無意識のうちに集中して周りが見えなくなっていたせいかもしれない。ペンを置くと、右掌がじゅっと汗ばんでいた。

 何か大罪でも犯してしまったかのように、心臓が激しく音を立てていた。こんなことは、大したことではない。男子の中で流行っている遊び。きっと他のクラスの連中だって同じようなことをしているに違いないのだ。それに、持ちかけてきたのは宮沢であって、僕ではない。

 僕は悪くない、と自分に言い聞かせながらも視線を感じてさっと後ろを振り返る。
 一番後ろの席で、岡田さんと一瞬目が合ったような気がしたけれど、多分気のせいだろう。
 彼女は休み時間の大半、頬杖をついて窓の外を見ているだけなのだから。