最短距離

「私は、元気だよ。板倉君は?」

 あくまで部屋の中に入れてくれたり、顔を合わせてくれたりはしないつもりらしい。
 きっと彼女が会いたいと望んでいるのは僕じゃない。僕はそれを知っている。でも、自分の気持ちを優先してここに来た。彼女が会いたくないというのなら、限られた時間で彼女に伝えるしかない。

「僕は、安藤さんがいなくて、ちょっと寂しいかな」

 扉の向こうで、彼女が息を飲む音が聞こえた気がした。
 岡田さんは僕たちの会話に口を挟むことなく、静かに見守ってくれている。

「……そっか。ごめんね。でも私、あの日から行く気が起きないの、学校」

 知っているよ。一週間前、教室で起きた事件。あんなことをしたやつを、僕はいまだに許せていない。
 けれど、周りを見れば、クラスのやつらの大半は、ランキング事件のことなどとっくに水に流して普通に生活しているんだ。
 きみだけだよ。僕ときみだけなんだ。前に進めていないのは——。
 悔しくないの? 安藤さんだって、知ってるんでしょう。畑中さんが何度か見舞いに来てるって言っていた。きっと彼女の口からクラスの様子も教えてもらったはずだ。
 僕たちだけが、取り残されているなんて、きみは悔しくないの。
 そう、喉の入り口まで言葉が出かかった。けれど、実際にそんなことを口にしてしまえば絶対に嫌われることが分かっていたから、僕は必死に言いたいことを全部飲み込む。