最短距離

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 なぜこんなことになったのか、僕には分からない。
 放課後、僕は部活を休んだ。同級生に風邪を引いたと伝えたら、「大会前なのに」と嫌な顔をされた。
 いつもの帰路とは違う道を歩く僕の隣で、岡田京子が肩を揺らしている。彼女の表情が心なしか普段より明るい。そういえば、学校では一人でいることが多くて笑った顔や明るい表情を見たことがなかった。
 いじめられているのか、と聞かれれば多分そうではない。彼女は彼女自身の意思によって、いつも一人でいるようだった。彼女の存在に、どれくらいの人間が注意を払っているだろうか。

「あのさ、今更なんだけどなんでついてきたの」

 彼女には周りくどい表現よりも直球で聞いた方が意思疎通がしやすいと思った。

「べつに、理由なんかないよ」

 そんなことないだろう。
 喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
 理由なく、僕みたいな平凡なクラスメイトの男子についてきたりしない。例えばそうだ、浩人みたいな人気者なら分かる。彼を好きだと思う人間は性別問わずたくさんいるのだから。
 頭の中で、安藤さんの切なげな表情が浮かぶ。想像上の彼女が眺めているのは、浩人の席だ。いつもいつも、そうだった。僕が見ないフリをしていただけで、たぶんずっと前から、彼女は彼を見ていた。

 安藤さんの家に行く道は、坂道が多かった。登ったり降ったり、なんのためにあるのか分からないアップダウンを繰り返して、ようやく「安藤」という表札のかかった戸建ての家に着いた。閑静な住宅街で、彼女の家のほかにも玄関先に色とりどりの花の植木鉢が並んだ家が多くあった。