「まって、和咲!」
教室から出て行ったのは、紛れもなく僕が想いを寄せる少女、安藤和咲だった。彼女を追いかけるために、仲良しの畑中さんも駆けてゆく。他にも数人の女子が後を追いかけようとしていたが、ちょうど担任の伊藤先生が教室に入ってきて、「待ちなさい」と残りの女子を教室に留まらせる。
「何があったのか、教えてくれませんか?」
先生は、教室に来るなり女子が飛び出していき、多少なりとも動揺しているらしかった。さらに先生の視線が後ろの黒板に書かれているランキングへと移る。途端に、怒りとも戸惑いともつかない複雑な表情を浮かべて、皆の顔を見回した。
「あれを書いたのは誰ですか」
罪人を追及する厳しい口調で、先生はのたまった。
僕たちは全員顔を伏せてたり視線を泳がせたりしていたけれど、先生がすぐに「宮沢君」と名前を呼んだので、他の皆は自分に嫌疑がかけられなかったと知ってほっとしていただろう。
しかし僕は、先ほど教室を飛び出す前に安藤さんが見せたくしゃりと歪んだ顔が脳裏をかすめ、先生からの説教に怯えるどころではなかった。あの時、彼女が一瞬僕の目を見たことが胸に疼痛を運んだ。それから、彼女が好いているであろう矢部浩人のことも一瞥していたのを目にして、目の前の光景がぐらりと歪んだ気がした。
あの瞬間、彼女が僕に何を言おうとしたのか、分からない。
でも、彼女が僕に何かしらの感情を抱いたのは間違いない。
その日を境に、安藤さんは学校に来なくなった。
教室から出て行ったのは、紛れもなく僕が想いを寄せる少女、安藤和咲だった。彼女を追いかけるために、仲良しの畑中さんも駆けてゆく。他にも数人の女子が後を追いかけようとしていたが、ちょうど担任の伊藤先生が教室に入ってきて、「待ちなさい」と残りの女子を教室に留まらせる。
「何があったのか、教えてくれませんか?」
先生は、教室に来るなり女子が飛び出していき、多少なりとも動揺しているらしかった。さらに先生の視線が後ろの黒板に書かれているランキングへと移る。途端に、怒りとも戸惑いともつかない複雑な表情を浮かべて、皆の顔を見回した。
「あれを書いたのは誰ですか」
罪人を追及する厳しい口調で、先生はのたまった。
僕たちは全員顔を伏せてたり視線を泳がせたりしていたけれど、先生がすぐに「宮沢君」と名前を呼んだので、他の皆は自分に嫌疑がかけられなかったと知ってほっとしていただろう。
しかし僕は、先ほど教室を飛び出す前に安藤さんが見せたくしゃりと歪んだ顔が脳裏をかすめ、先生からの説教に怯えるどころではなかった。あの時、彼女が一瞬僕の目を見たことが胸に疼痛を運んだ。それから、彼女が好いているであろう矢部浩人のことも一瞥していたのを目にして、目の前の光景がぐらりと歪んだ気がした。
あの瞬間、彼女が僕に何を言おうとしたのか、分からない。
でも、彼女が僕に何かしらの感情を抱いたのは間違いない。
その日を境に、安藤さんは学校に来なくなった。



