最短距離

 僕は、皆の視線を追うように、教室の後ろの方を見遣る。

「なんだあれ」

 どこの教室でもそうかもしれないが、僕たちの教室の後ろの壁には小さめの黒板がある。
 連絡事項があればいつもそこに書いて全員に知らせるのだが、今そこにはデカデカと「2年4組 かわいい女子ランキング」という下手くそな字が書かれていた。
 タイトルの下には、「1位 池田ななみ」「2位 藤堂亜希」「3位 安藤和咲」に続き、「19位 岡田京子」まで書き連ねてある。

「は?」

 思わず口から軽蔑の声が漏れ出る。おそらく、僕以外の全員がこれを見た瞬間に、同じ反応をしただろう。

「なあ、あれ誰が書いたんだ?」

 僕は幼なじみの矢部浩人の肩を叩いて問う。
 彼は、気まずそうに件の黒板の前に立つ宮沢健一を指差して、

「たぶん、あいつだと思う」

 と囁くような声で言った。

「宮沢か」

 彼は、黒板の前で数人の男子と集まってニヤニヤしながらランキング結果をチラチラ見ている。「あいつはないな」とか「池田が1位なのは当然だろ」とか、楽しんでいるようだ。
 後ろからそそがれるクラスメイトたちの冷ややかな視線が、気にならないのだろうか。
 僕に、女子の名簿を渡してランキングに投票しろと指示してきたのもあいつだった。その時は男子たちの間でこっそり結果を見て楽しむぐらいのものだと思っていた。
 しかし、彼は今こうして、ランキングの結果をクラスの全員の目に触れるように公開している。

「最悪だな」

 僕は、静まりかえった教室の中で自分でも恐ろしいくらい黒い声で、彼らに告げた。