「例えば明日、地球が滅びるとするよ」

 中学2年生の7月頭。
 僕が、テスト明けの穏やかな気持ちでお弁当を食べていたら、隣の女子グループから気になる声が聞こえた。どこからか香る制汗剤の匂いに、もうすぐ夏休みだなと実感を覚える。ちょうど先週、1学期の期末テストが終わった。テスト返却でほどよくメンタルがやられる中、僕は一人、夏休みまでの消化試合のような残りの日数に思いを馳せた。
 それにしても、物騒な設定だな。
 「地球が滅びる」って。女子たちの間で流行っている、何かのゲームだろうか。
 窓を閉め切った教室は、ガンガンにクーラーが効いていて、クーラーのない廊下に出るのが億劫になるくらい快適だった。

「さあ、皆は今日何をする?」

 そう訊いたのは、畑中凪(はたなかなぎ)という女子だ。彼女はいつも、昼休みには仲の良い4人で集まっている。

「えー、何するだろ。明日で終わってしまうなら、美味しいもの食べに行くかな」

「それはいいね。最後の晩餐ってやつ」

「あたしは、ディズニーランドに行く」

「混んでそうだねえ」

「いいじゃん。最後くらい、一番行きたい場所に行くのも」

 禅問答のような畑中さんの問いに足立(あだち)さん、吉村(よしむら)さんが答えた。残るは、安藤和咲(あんどうかずさ)という女子だ。

「和咲は?」

 何か意味があるのかどうか分からない質問なのに、畑中さんは真剣に彼女の答えを待っていた。