女嫌いのスパダリと、2次元命な天才少女が、カップルVTuberをするようです。

 車の後部座席に降ろされ、かなくんも隣に座った。

「終わったか?」
「……はい」
「そうか」

 お父さんの言葉に頷くと、車が走り出した。
 あっ、シートベルト締めなきゃ……っと。

 じゃなくて!

 いやシートベルトは大事だけど、じゃなくて!

 私は隣のかなくんのほうをじっと見る。

「晴香、どうかした?」

 かなくんはきょとんと首をかしげた。
 ……お姫様抱っこされたのが初めてで、衝撃的すぎて、だから今さら気づいたんだけど、さ。

「もしかしなくても、さっき、かなくんは私をお姫様抱っこしてたよね……?」
「したね」
「しかも、結構ガッツリ密着してたのに、安定してたよね……?」
「ちゃんと支えられてたならよかったよ」

 にこっと持ち前の美形を最大限に生かしてかなくんは笑う。
 その笑みにくらっときつつ、私は大事なことを聞くために口を開く。

 出会ったときは握手ですら手が震えていたかなくんが、密着したお姫様抱っこでは一切震えなかった。
 そこから導かれるのは。

「かなくん、女嫌い、治った?」

 車内が、静かになった。

 女嫌いが治るのはすごくいいことだ。
 だけど、そしたら、Vチューバー活動を始めたきっかけが消滅することに……。

 ってか私も、さっきかなくんの笑顔にくらっときてなかった?
 それに、変な気配りせず素でしゃべれてる……?
 ということは、私も3次元ダメじゃなくなってるのでは!?

 デビュー目前にして、Vチューバーをやろうって言いだしたきっかけが、両方とも消滅の危機!?

 そんなふうにひとりであわあわしていると、かなくんは私の目を見て、言った。



「晴香だけだよ」



 ……なにそのセリフ破壊力やばすぎ!!!!!

 顔がかぁぁっと赤くなるのを感じる。

 と、そこで気づいた。

「私が3次元で恋できそうなのも、かなくんだけかもね?」

 すると、かなくんがふいっと目線をそらした。
 どうしたんだろ……?

 あ、そうだ、これも聞いておきたいんだった。

「そういえば、なんで公園いたの?」

 問いかけると、かなくんはこっちに向き直って説明を始めてくれる。

「それは――」

 そのほっぺたがちょっと赤いことに気づいて、おそろいだね、なんて思った。
 口には出さないけど。

***

 その日、帰ってすぐ寝る支度を済ませて、布団の中で、私はいろんなことを思い返した。

 お父さん。
 親として子供を守ろうって感じがすごくした。

 かなくんが公園にいた理由。
 思ったより周りの人は私のこと見てるんだなぁ、って思ったのと、結果論だけど、DMの存在をかなくんに隠さずにいてもよかったかもしれない……。

 アンチさん。
 私がかなくんの隣で笑ってたいと言ったとき、彼女は、一瞬、ひるんだような顔をした。すぐ怒りの表情に戻ってしまったけど、あの一瞬、私の言葉が届いてたのかな。
 だったらいいな。

 そのあと、これからのVチューバー活動に思いを馳せたら、眠りに落ちるのはすぐだった。

***

 ――Vチューバー活動は、きっとまだまだ楽しいことがたくさんある。

 もし今後、女嫌いも3次元苦手も治って、Vチューバーを始めたきっかけがどちらも消えてなくなったとしても。
 この予感さえなくならなければ、活動を続けられるような気がした。