女嫌いのスパダリと、2次元命な天才少女が、カップルVTuberをするようです。

 彼女は、一瞬、ひるんだような顔をした。
 純粋な子供のようで、泣き出す寸前のようで――もしかしたら、これが彼女の素顔なのかもしれない。

 でも、次の瞬間、彼女はくしゃりと表情を歪める。

「なによなによなによなによ!」

 怒りと苦しみで、素の自分を塗りつぶしているみたいだった。

「……っ!?」

 ただならぬ気迫に、じりじり後ずさる。
 同時に、彼女は一歩、一歩と私のほうへ迫ってきた。

「頑張りたい? そんな気持ちはすぐに折れるわ!
 いくらあんたが頑張ったところで、あんたと叶方さまは不釣り合いのまま変わらない! 叶方さまは誰とも関わらず、孤高であるべきよ! だからこそあたしは、なんとしてでも、あんたに『叶方さまから離れる』と言わせたかった!
 なのに、それなのに……ッ!」

 怒りに任せたような言葉で、一歩、一歩、私たちはじりじり移動する。

 手を伸ばせば届く距離。
 私に掴みかかろうとする彼女の手が、迫る。

 逃げなきゃ、とお父さんに教わったことを思い出して、

「……えっ?」

 ふわりと抱きかかえられるのを感じた。

「――少なくとも、こいつは不釣り合いなんかじゃない」

 聞きなれたイケボ。

 か、かなくん!?
 しかも、これ、いわゆるお姫様抱っこというやつでは……!?

 状況整理。

 私、叫んだ。
 彼女、掴みかかろうとした。
 かなくん、私をお姫様抱っこして掴みかかりを回避。

 えええ???

 と、とと、とりあえず、これ、落ちない? 大丈夫?

 かなくんにはお姫様抱っこの才能(?)もあるのか、簡単には落っこちなさそうだったけど、怖いものは怖いのでぎゅっとしがみつく。

 そして、私は、彼女のほうを見た。

「叶方さま!? どうして……」

 遅れて彼女も状況を受け止めたらしく、さああっと青ざめている。

 さっきの発言から考えると、彼女は、「叶方さまと自分は関わるべきでない」と思っている。
 なのに今、彼女自身の行動のせいで、かなくんと彼女は言葉を交わしている。

〝私に「叶方さんから離れる」と言わせたい〟という彼女の目的も叶っていない。

 ……つらいだろうな。

 かなくんはため息をつく。

「俺がお前に言いたいことはひとつ。お前に求めることもひとつ。
 ――俺が誰と関わるかは俺が決める。お前はもう、俺たちに関わるな」

 彼女の顔から、いよいよ生気が失われた。

「………………言われなくても、そのつもりよ……っ」

 涙声だった。

「…………だって、どうあがいても、あんたと、叶方さまは、関わり続ける。…………それなら、あたしがどう語っても、どう邪魔しても、ムダ…………あたし、諦めるのは、得意よ…………っ」

 震える声でそう言って、彼女は私たちに背を向けた。

「……帰ろうか」
「うん。うん……??」

 かなくんに優しいイケボで帰りを促され、うんと言ったはいいけど。
 いやあの、彼女にかけられる言葉なんてないし、帰るのには賛成なんだけど。

 ……かなくんは、なぜここに?

 混乱する私を抱えたまま、かなくんは車のほうへ歩きだす。

 彼女のほうから、すすり泣く声が聞こえた。