『条件? なんですか?』
『DMの送り主と会うまでの間に、少しでいいから護身術を身につけて欲しい』
それから、Vチューバー活動だけの毎日に、お父さんからの指導が加わって。
『とにかく安全な場所まで逃げることだけを考えろ』
もともと運動はものすごーく苦手だったし、逃げるためのすべを学ぶのもすごくつらかったけど、ひさびさのVチューバー活動のことを考えない時間は新鮮だった。
そして現在8月11日20時50分、つまり指定された時間の10分前。
「晴香が出かけるなんてめずらしいな、しかも夜だし、父さんの車だし」
「へへ、どうしても今じゃなきゃダメでさー」
かなくんに不審がられながら、車で××公園へ。
そう、××公園へは10分で間に合うような近さで、本当は徒歩圏内だ。
だけど、車で行くのには理由がある。
それは徒歩圏内だとバレないため。
まあ、申し訳程度の小細工だ。
だって、家がバレてるからこそ、ここを待ち合わせにしてきた可能性が高い。
***
公園に着くまで、車内は無言だった。
車窓を眺めて、私はぼんやりと考える。
女生徒はきっと、かなくんの才能を目の当たりにして潰れてしまった――
私、毎日のようにかなくんのすごいところを見てて、「私、ダメダメだなぁ」って落ち込むことがあって。
かなくんのおかげで動画が伸びてる今、かなくんは替えがきかないけど、私は別の女の子でもカップルVは成立したんじゃないかなって思うときがある。
今から会いに行くのは、私が、潰れないため。
Vチューバー・かなくんの最初のファンは、私だから。
かなくんのそばに、居たいから。
「……着いたぞ。まずは通り過ぎるから、女生徒であるかどうか確かめてくれ」
「はい」
メガネと車窓越しに公園内をじっと見る。
夜だから、人の姿はひとつしかない。
「遠目だし電灯の光が届かないとこにいるから自信ないですけど、大男ではなさそうです」
「じゃあ停めるか」
××公園は住宅街のそばにある。
だから車が横を通ることは不自然じゃない。
もし大男が待ち構えているようであれば、ただ通りがかっただけという顔をしてそのまま帰るつもりだった。
車を停めたお父さんは、窓越しに公園の様子をじっと見る。
「……限りなく女生徒に似ているな」
私も再び目をこらす。
公園にいる人は、この車が停まるのに気付いて、電灯の下へ移動していた。
だから、さっきは見えなかった顔が、電灯に照らされてよくわかる。
なんか、すごーく既視感が。
具体的には、私が最初に考えたVモデルデザインとそっくり。
そりゃあんなに苦しむわけだ……。
「行ってきます」
「後悔のないようにな」
「もちろん」
口角を上げて、私は車を降りる。
すると、先客は私をじぃっと見た。
「……あんたがハル?」
うっ、2人称が「お前」じゃなく「あんた」なことに壮絶な違和感が……。
『DMの送り主と会うまでの間に、少しでいいから護身術を身につけて欲しい』
それから、Vチューバー活動だけの毎日に、お父さんからの指導が加わって。
『とにかく安全な場所まで逃げることだけを考えろ』
もともと運動はものすごーく苦手だったし、逃げるためのすべを学ぶのもすごくつらかったけど、ひさびさのVチューバー活動のことを考えない時間は新鮮だった。
そして現在8月11日20時50分、つまり指定された時間の10分前。
「晴香が出かけるなんてめずらしいな、しかも夜だし、父さんの車だし」
「へへ、どうしても今じゃなきゃダメでさー」
かなくんに不審がられながら、車で××公園へ。
そう、××公園へは10分で間に合うような近さで、本当は徒歩圏内だ。
だけど、車で行くのには理由がある。
それは徒歩圏内だとバレないため。
まあ、申し訳程度の小細工だ。
だって、家がバレてるからこそ、ここを待ち合わせにしてきた可能性が高い。
***
公園に着くまで、車内は無言だった。
車窓を眺めて、私はぼんやりと考える。
女生徒はきっと、かなくんの才能を目の当たりにして潰れてしまった――
私、毎日のようにかなくんのすごいところを見てて、「私、ダメダメだなぁ」って落ち込むことがあって。
かなくんのおかげで動画が伸びてる今、かなくんは替えがきかないけど、私は別の女の子でもカップルVは成立したんじゃないかなって思うときがある。
今から会いに行くのは、私が、潰れないため。
Vチューバー・かなくんの最初のファンは、私だから。
かなくんのそばに、居たいから。
「……着いたぞ。まずは通り過ぎるから、女生徒であるかどうか確かめてくれ」
「はい」
メガネと車窓越しに公園内をじっと見る。
夜だから、人の姿はひとつしかない。
「遠目だし電灯の光が届かないとこにいるから自信ないですけど、大男ではなさそうです」
「じゃあ停めるか」
××公園は住宅街のそばにある。
だから車が横を通ることは不自然じゃない。
もし大男が待ち構えているようであれば、ただ通りがかっただけという顔をしてそのまま帰るつもりだった。
車を停めたお父さんは、窓越しに公園の様子をじっと見る。
「……限りなく女生徒に似ているな」
私も再び目をこらす。
公園にいる人は、この車が停まるのに気付いて、電灯の下へ移動していた。
だから、さっきは見えなかった顔が、電灯に照らされてよくわかる。
なんか、すごーく既視感が。
具体的には、私が最初に考えたVモデルデザインとそっくり。
そりゃあんなに苦しむわけだ……。
「行ってきます」
「後悔のないようにな」
「もちろん」
口角を上げて、私は車を降りる。
すると、先客は私をじぃっと見た。
「……あんたがハル?」
うっ、2人称が「お前」じゃなく「あんた」なことに壮絶な違和感が……。



