女嫌いのスパダリと、2次元命な天才少女が、カップルVTuberをするようです。

「当時、絵が塗りつぶされた時点で許可をとって録音をはじめていた。だから、彼女の音声が残っている。おすすめはしないが、聞いてみるか?」

 こくりとうなずいた。
 聞かない、なんて選択肢はない。

 お父さんは、感情を押し殺したような表情で再生機器を取り出し、再生ボタンを押す。

『か、叶方、さま、あ、あたしは、わたしは、なんてことを、けど、あなたは天才で、あたしの数年の努力をかるがるこえて、なんでもないかおで、いっちゃうんでしょ、あ、ああ、あああああ』

 今目の前で起こっていることではない。
 そう分かっているのに、ぞわり、と鳥肌が立った。

 変わらない固い表情で、お父さんは再生機器をしまう。

「再び絵を描き上げた、叶方の真意はわからない。ただ気が向いたから、それだけかもしれない。けれど、あの子は優しい。私たちの再婚といい、他人を楽させるにはどうすべきか計算して動いているところがあるんだ。……ここからは妄想でしかないが、叶方はこのようなことを考えていたのではないかと私は思う」

 そこでお父さんは言葉を区切った。

「――作品を汚すという一生消えない罪を背負ってしまった女生徒に、新しい作品の(いしずえ)になるという功績を与え、苦しさを減らそう、と」

 あり得る……!
 絵を汚された自分の苦しみから目を逸らし、他者の苦しみを減らそうとした場合、私も当時のかなくんと同じ行動をとると思う。だってそうすれば、汚したことで、汚したおかげで新しい作品ができあがったということになる。
 それは、女生徒だけでなく、顔面蒼白だったという先生にも、ほんの少し救いになるはずだから。

 そして、その結果が、さっきの音声……。

「その声音の不安定さに、無理に気丈にふるまっていた叶方の張りつめた糸が切れたのだろうか。急に焦点が合わなくなった叶方を連れ帰り、なるべくケアに努めたが、その日から、叶方は女性を拒むようになった。……君のお母さんを家政婦としてやとうのにためらっていたとき、『もう大丈夫』と言われたから安心しきっていたが、初対面の君に指摘された通り、おそらくその女嫌いは今も治っていない」

 そりゃ、無理もないわ。

 例の女生徒を怖がるのは、音声を聞けばわかる。あれは生命の危機を感じる。
 それに、他の生徒も、面倒ごとを押し付けたと思えば、美形というだけで手のひらを返し、あまつさえ他人に作品を汚すよう追い込むだなんて。
 そんな激やば女子たちを「自分の作品を汚される」って形で一気に目の当たりにしてしまったら――。

 生徒がみんな女だったとはいえ、もはや女嫌いで済んだのが不思議だ。
 人間不信とか、男嫌いすらもあり得たんじゃない?