私はいったん話を整理する。
「かなくんの女嫌いには、原因となった女性がいて、その女性と、今回のDMの送り主は似ている――本人を疑うくらいに。そういうことですか?」
「ああ。叶方の女嫌いは後天的なものだ」
やっぱり、生まれたときから女嫌いだったわけじゃなく、あとからトラウマで生まれたものだったんだ!
「何があったのか、お聞きしてもいいですか?」
「叶方は昔から、無気力――楽しいと思えることに出会えず、他者に興味がもてず、暇そうにしている傾向があった。そこで、私は叶方にさまざまな習い事を試させ、楽しいことを見つけさせようとした」
あ、無気力の方は元からなんだ。
「しかし、その途中、絵画教室の2回体験でことは起こった。――絵画教室は女性が多く、紅一点ならぬ黒一点。なんとなく不安で、しっかり私が付き添ったのが不幸中の幸いだった」
絵画教室。
油絵具ブラシを扱えたのは、そのせい……?
「1回目はよかった。先生は悪くなく、教室の空気は微妙だったが、ひとり優しく教えてくれた女生徒がいた。……叶方も、『めずらしく退屈じゃなかった』と言っていたんだ。しかし2回目、叶方が絵を完成させた瞬間、その女生徒が豹変し、叶方の絵を赤でぐちゃぐちゃに塗りつぶした」
「絵を、塗りつぶす……!?」
ありえない。
女生徒への怒りが、恐怖が、湧き上がってくる。
お父さんは、苦々しい顔だ。
「そうだ。もともと、その女生徒は教室の中で弱い立場の人間だったらしい。1回目は、面倒な『教える役』の押し付け合いに負け、その女生徒はそれを引き受けた。しかし叶方の美貌がわかった2回目は、みんなやりたがって競争になり、もう一回『教える役』になることを望んだ女生徒は――代わりに、叶方が絵を完成させた直後に彼の目の前で塗りつぶすという条件を呑んだ、吞まされたとのことだ」
女生徒ひとりだけ狂人、というわけではなさそうだ。
……ひどい。
「叶方の絵が塗りつぶされて、すぐさま私は先生の責任を問うた。先生は顔面蒼白になりながら私と叶方に謝り、生徒らを叱り、それでその『教える役』の事情が明らかとなった。生徒らも謝ってきた。――しかし、絵が戻ることはない」
そりゃそうだ。
私はよく知っている。
アナログ絵に「ひとつ戻す」ボタンなんて便利なものはない。
「叶方は言ったんだ。つらいだろうに、平気な顔をして、『絵が戻ることはないでしょう? で、あれば、これをもとに完成させてみせますよ』と。言葉のとおり、真っ赤に塗りつぶしたものを活かして作品を完成させた。しかしそれで大団円とはいかなかった。あろうことに、塗りつぶした本人が、再び場をぶち壊したんだ」
「かなくんの女嫌いには、原因となった女性がいて、その女性と、今回のDMの送り主は似ている――本人を疑うくらいに。そういうことですか?」
「ああ。叶方の女嫌いは後天的なものだ」
やっぱり、生まれたときから女嫌いだったわけじゃなく、あとからトラウマで生まれたものだったんだ!
「何があったのか、お聞きしてもいいですか?」
「叶方は昔から、無気力――楽しいと思えることに出会えず、他者に興味がもてず、暇そうにしている傾向があった。そこで、私は叶方にさまざまな習い事を試させ、楽しいことを見つけさせようとした」
あ、無気力の方は元からなんだ。
「しかし、その途中、絵画教室の2回体験でことは起こった。――絵画教室は女性が多く、紅一点ならぬ黒一点。なんとなく不安で、しっかり私が付き添ったのが不幸中の幸いだった」
絵画教室。
油絵具ブラシを扱えたのは、そのせい……?
「1回目はよかった。先生は悪くなく、教室の空気は微妙だったが、ひとり優しく教えてくれた女生徒がいた。……叶方も、『めずらしく退屈じゃなかった』と言っていたんだ。しかし2回目、叶方が絵を完成させた瞬間、その女生徒が豹変し、叶方の絵を赤でぐちゃぐちゃに塗りつぶした」
「絵を、塗りつぶす……!?」
ありえない。
女生徒への怒りが、恐怖が、湧き上がってくる。
お父さんは、苦々しい顔だ。
「そうだ。もともと、その女生徒は教室の中で弱い立場の人間だったらしい。1回目は、面倒な『教える役』の押し付け合いに負け、その女生徒はそれを引き受けた。しかし叶方の美貌がわかった2回目は、みんなやりたがって競争になり、もう一回『教える役』になることを望んだ女生徒は――代わりに、叶方が絵を完成させた直後に彼の目の前で塗りつぶすという条件を呑んだ、吞まされたとのことだ」
女生徒ひとりだけ狂人、というわけではなさそうだ。
……ひどい。
「叶方の絵が塗りつぶされて、すぐさま私は先生の責任を問うた。先生は顔面蒼白になりながら私と叶方に謝り、生徒らを叱り、それでその『教える役』の事情が明らかとなった。生徒らも謝ってきた。――しかし、絵が戻ることはない」
そりゃそうだ。
私はよく知っている。
アナログ絵に「ひとつ戻す」ボタンなんて便利なものはない。
「叶方は言ったんだ。つらいだろうに、平気な顔をして、『絵が戻ることはないでしょう? で、あれば、これをもとに完成させてみせますよ』と。言葉のとおり、真っ赤に塗りつぶしたものを活かして作品を完成させた。しかしそれで大団円とはいかなかった。あろうことに、塗りつぶした本人が、再び場をぶち壊したんだ」



