「俺は、ハルと――晴香と出会うまで何も知らなかった。だから、『ハルに言われたからやった』以外、とくに歌詞にできることは……」
無い。
そう言いたげだ。
確かにVチューバー関連に絞ったらそうなるけど!
「か、活動に直結しなくてもいいんだよ?」
「……あ、そうなんだ?」
よしっ、今度こそかなくんの過去が……!?
期待した瞬間、かなくんの表情にかげりが生じる。
「でも、どっちかというと、現実の過去を語るより、キャラ設定にあわせて歌詞を考えた方がいいんじゃないか…………」
その声はいつもより少しだけ暗くて、小さくて、震えていた。
はぐらかされた……?
かなくんの言っていることは間違ってない。良いアイディアだと思う。
だけど。
かなくんは、過去について言いたくないから、さっきの提案をしたんじゃない?
モヤモヤする気持ちにフタをして、私はにっこり笑った。
「確かに言えてるかも! それじゃあ……」
***
あの後、わりと良い感じの歌詞ができて、あとで歌ってみようとなった。
かなくんはすぐにでも録れそうな感じだったけど、私が練習したいので、録音は明日。
毎日やる系の宿題があるらしく、かなくんは自室に戻っていった。
「……はぁ」
配信部屋にひとり取り残された私は、ため息をつく。
過去を言いたくないって気持ちはわかる。
だけど、言いたくないなら、「言いたくない」ってハッキリ言ってほしかったなぁ。
「……あはは」
乾いた笑いがこぼれる。
自分だって、「かなくんって女嫌いになったきっかけとかあるの?」とか、「現実のかなくんを知ってそうなアンチからDMが来たんだけど送り主だれだかわかる?」とか、ハッキリ言えなかったくせにね。
「私も、自分のお部屋に戻って作業しようかな」
動画編集はここでしかできないけど、ここに居ると、かなくんのことばかり考えてしまいそうだ。
部屋に戻った私は、大好きなクッションに顔をうずめていた。
さて、自室で出来る作業とは何でしょう?
チャンネル登録者5000人になったら公開する、Vモデルの新衣装づくりだ。
サブアカウントにログインし、「今から作業しまーす!」だなんてつぶやく。
あ、DM通知が来てる。
『既読ついてんのわかってますよ』
……送り主は、例のアンチさんでした。
せっかくかなくんのことを考えないようにしてたのに!
むーっとしながら、ふと、このヒトはどんなつぶやきをしてるんだろうと気になった。
アンチさんのアカウントを覗きに行く。
あわよくば、なにか、個人が特定できそうなつぶやき、無いかなー?



