女嫌いのスパダリと、2次元命な天才少女が、カップルVTuberをするようです。

「次は歌ってみたの冒頭ー」

 そう言ってまた台本メモを差し出す。

ハル:『かなくんかなくん』
カナ:『なに?』
ハル:『○○、歌ってくれない?』
カナ:『ええ? ……まあ、いいよ』
ハル:『やったー! ありがと!』

 かなくんはまた、真剣な表情でメモをじっと見てから、顔をあげてこちらを向いた。

「これって言い回しちょっと変えてもいいの?」
「いいよ、長くなり過ぎないと助かる!」

 もし長くなり過ぎたら、歌の部分を削らなきゃいけなくなるかもなんだよね。
 さっき、読み方はゆっくり過ぎず、っていったのもこれが理由。

 というのも、縦型動画は「つまみ食い」ならぬ「つまみ見」するもの。
 ちょっとでも長いなーと思われたらすぐ視聴を止められてしまうのです!

 ……以上、どっかで見た情報の受け売りです。信憑性は知らない。とほほ。

 かなくんは微笑を浮かべた。

「了解。長さはそう変わらないと思うから、安心して」
「ならよかった。どんなアドリブ?」
「やってみるまでのお楽しみ、じゃだめ?」
「いいけど……」

 こりゃ、なんかたくらんでる!?
 言い回しを変えるって言ってたから、内容は同じで言い方だけ変えるってことでいいんだよね。
 私のセリフはそのままでいい感じかな?

「それじゃあいったんやってみるー?」
「ああ、お願い」

 私は深呼吸してから録音をスタートした。

「かなくんかなくん」
「なに?」
「○○、歌ってくれない?」
「ええ? ……まあ、ハルがそれを望むなら」

 !?!?!?

「やったー! ありがと!」

 一瞬セリフが飛びかけたけど、なんとか思い出して続けた。

 録音終了。

「たしかにこっちの方が良いと思うけどさあ、いきなりそのセリフをイケボで聞いた私の気持ちがわかる??」
「……どんな気持ちなのか?」

 こてん、とかなくんは整った顔をかたむける。

「そうやって冷静に返されると調子狂うわ……」

 私は、熱くなった気がするほっぺたを、ぱたぱたと手であおいで冷やした。

「よし、それじゃあ次は――」
「あ、まだあるんだ?」
「初日だからね。基本的に録った日の3日後に完成させようと思ってて、明日から毎日1本完成させたいから、明日完成させる分、明後日完成させる分、明々後日(しあさって)完成させる分って録ってるの。ってなわけで、今日は多いよ~」

 覚悟しといてね、って思いを込めて手をわきわき動かしてみる。
 ちょっと引かれた。解せぬ。げせぬ。(大事なことは2回)

***

 そんなこんなでひとまず無事にやりたかった録音を終えることができた。
 かなくん、どんな録音でも即興で一発で成功させるの化け物過ぎて尊敬。

 え? 練習してたとはいえ数回で終える私もたいがい?
 えへへ、それほどでもー。

 ……よし、残すは動画編集!

 昔ほんとに一瞬だけ歌ってみたの真似事もしてたのが、今になって役に立ってる。
 そのときは、完成させる前にやる気なくしちゃったんだけどね……。