「多趣味というか、いろんな方向に目移りしやすくて。達成したあととか、達成する手前で、飽きてそのままフェードアウトしたり。横から水を差されたり。そういうので、晴香が能力を発揮できる場所は簡単に崩れ去ってしまう――あの子、あれでいつも危うい均衡の中に居るの。コミュ障なところもあるから、悪意ある他人をやり過ごすのも得意ではないし」
「わかる気がします、危なっかしいですよね」
晴香は機材の買いに行くとき、街のいろんなものに目をうばわれ、しょっちゅう立ち止まっていた。
――そのとき、もし悪意ある大人が晴香に声をかけていたら?
きっと晴香は夢中で気付かないだろう。そして、どうなる?
晴香はハッキリ言って美少女だ。狙われる可能性は低くない、高い方だ。
嫌な予想を、首を横に振ってかき消した。
「そんなあの子が、熱意をもって一つのことに熱中している。これだけの期間、熱中できている――とてもめずらしいことなの」
たしかに。
コミュニケーションが得意ではないのに、出会い頭にVチューバーをやるよう言ってきて。
いくつもデザイン案を考えて、他人に頼るくらい機材にもこだわって。
カラオケに入ったのだって、歌ってみたのためだろう。
現状、晴香の好奇心などなどがすべてVチューバーに向かっていることは簡単に想像がついた。
そして、悪意ある他人がもし現れたら、現状が簡単に壊れてしまうことも。
「私もたまに忘れてしまいそうになるけれど、あの子はまだ中2。高1の叶方くんと違って、アルバイトをしたことすらない。視野の狭さから、思いもよらぬ失言をして、一生消えないネットタトゥーを刻まれるかもしれない」
「……」
「本来なら、あの子が投稿をするときは母である私が必ずそばにいるべきなんでしょうけど、私も人間だから、晴香に24時間365日ずっと張り付くことはできない」
そう語るお母さんの表情は硬く、手をきつく握りしめていた。
力不足を悔いるみたいに。
俺がかける言葉を探そうとした矢先、真剣な表情のお母さんと目が合う。
「けれど叶方くん――あなたなら、Vチューバーとして配信をしているときも隣に居られるあなたなら、行く末までそばにいることができる。未成年のあなたに頼むのは間違っているでしょうけれど、どうか――」
きっと晴香の望む景色を観たいのはお母さんも同じだった。
もとから気を付けるつもりではいたが、「気を付ける」には限度がある。
いわゆるヒューマンエラーというやつだ。
「もちろん。……考えてみます。しゃべってから配信に反映されるまでを10秒くらい伸ばして、その間に失言に気付けたら、ワンボタンで失言が配信に乗らないようにできる、とかどうでしょう?」
考えをまとめつつ口に出せば、お母さんは目を輝かせた。
「それは面白いアイディアね!」
***
さっき話したシステムを実現すべく、カタカタいろいろ試していると、ドアがノックされた。
「ちょっと助けてぇぇぇ」
開けてみたら、少し涙目になりながら晴香が助けを求めていた。
かわいい。
そう思った自分に驚きつつ、悟られないように努めて、自然に首をかたむける。
「どうした?」
「機材届いたんだけど運べなくて……」
「ああ。わかった」
「ほんと!? ありがとう!」
満面の笑みに、胸の奥が締め付けられるのを感じた。
「わかる気がします、危なっかしいですよね」
晴香は機材の買いに行くとき、街のいろんなものに目をうばわれ、しょっちゅう立ち止まっていた。
――そのとき、もし悪意ある大人が晴香に声をかけていたら?
きっと晴香は夢中で気付かないだろう。そして、どうなる?
晴香はハッキリ言って美少女だ。狙われる可能性は低くない、高い方だ。
嫌な予想を、首を横に振ってかき消した。
「そんなあの子が、熱意をもって一つのことに熱中している。これだけの期間、熱中できている――とてもめずらしいことなの」
たしかに。
コミュニケーションが得意ではないのに、出会い頭にVチューバーをやるよう言ってきて。
いくつもデザイン案を考えて、他人に頼るくらい機材にもこだわって。
カラオケに入ったのだって、歌ってみたのためだろう。
現状、晴香の好奇心などなどがすべてVチューバーに向かっていることは簡単に想像がついた。
そして、悪意ある他人がもし現れたら、現状が簡単に壊れてしまうことも。
「私もたまに忘れてしまいそうになるけれど、あの子はまだ中2。高1の叶方くんと違って、アルバイトをしたことすらない。視野の狭さから、思いもよらぬ失言をして、一生消えないネットタトゥーを刻まれるかもしれない」
「……」
「本来なら、あの子が投稿をするときは母である私が必ずそばにいるべきなんでしょうけど、私も人間だから、晴香に24時間365日ずっと張り付くことはできない」
そう語るお母さんの表情は硬く、手をきつく握りしめていた。
力不足を悔いるみたいに。
俺がかける言葉を探そうとした矢先、真剣な表情のお母さんと目が合う。
「けれど叶方くん――あなたなら、Vチューバーとして配信をしているときも隣に居られるあなたなら、行く末までそばにいることができる。未成年のあなたに頼むのは間違っているでしょうけれど、どうか――」
きっと晴香の望む景色を観たいのはお母さんも同じだった。
もとから気を付けるつもりではいたが、「気を付ける」には限度がある。
いわゆるヒューマンエラーというやつだ。
「もちろん。……考えてみます。しゃべってから配信に反映されるまでを10秒くらい伸ばして、その間に失言に気付けたら、ワンボタンで失言が配信に乗らないようにできる、とかどうでしょう?」
考えをまとめつつ口に出せば、お母さんは目を輝かせた。
「それは面白いアイディアね!」
***
さっき話したシステムを実現すべく、カタカタいろいろ試していると、ドアがノックされた。
「ちょっと助けてぇぇぇ」
開けてみたら、少し涙目になりながら晴香が助けを求めていた。
かわいい。
そう思った自分に驚きつつ、悟られないように努めて、自然に首をかたむける。
「どうした?」
「機材届いたんだけど運べなくて……」
「ああ。わかった」
「ほんと!? ありがとう!」
満面の笑みに、胸の奥が締め付けられるのを感じた。



