女嫌いのスパダリと、2次元命な天才少女が、カップルVTuberをするようです。


 部屋に足を踏み入れ、再度声をかけても反応がなかったので、そっと首元にホットタオルを添えて退室した。



 同居が始まってからそれなりに日が経っている。

 だから、もうわかっていた。
 晴香が俺のような、すぐにセミプロ的な動きができるタイプの天才でないことも。

 同時に、彼女が自称するハイスペックが本当だともわかっていた。

 彼女の描く絵や作るモデルは、ふつうに商品として売れるレベルの品質だ。
 ひととおり調べたけれど、中学生でその域に至っている人間はほとんどいない。

 ほかの絵描きと、晴香の何が違うのか。
 それは――おそらく、好奇心、観察眼、集中力。


 機材の買いに行くとき、晴香は街のいろんなものに目をうばわれ、しょっちゅう立ち止まっていた。

 はじめて出会ったとき、一発で俺の女嫌いを見抜いた。

 そして。
 さっき、声をかけても気付かないほど、没頭していた。

「お母さん。ぶっちゃけだいぶ熱中してましたね。声かけても、タオル当てても気付かなかったですよ」
「あらやっぱり? まあ、声かけても気付かないのはいつものことだけど」
「いつもなんですか?」
「ええ」

 声かけても気付かないくらいの集中を、いつも……?
 半分ドン引きしていると、お母さんは口に手を当てて考え込む。

「でも、タオルも気付かなかったか……今晩はカレーかな」
「カレーだと何か違うんですか?」
「晴香、カレーのにおいだけはちゃんと気付くから」

 お母さんは大真面目な顔で言ってるけど、なんじゃそりゃ。

「あら、なんじゃそりゃみたいな顔してるわね」

 ギクッとして、ごまかしの言葉を探す。

「そういうわけじゃ……にしても晴香さんはすごいですね」
「話を逸らしたわね。それともついに兄バカ?」

 ふふっと笑うお母さん。
 どうやらこの場は切り抜けたか、と思いながら続く言葉を探した。

「いや……ふと思って。好奇心も、観察眼も、集中力も、俺にはないものばかりなので」
「たしかにね。それと、つけくわえるなら、あの子は目標から逆算する力も高いわ。だから好奇心から立てた目標を、決めたそばからどんどん達成していけるの。けれど――」

 語るお母さんの表情は変わらず笑顔だったけれど、ほんの少し硬くなったように見えた。
 つられて自分も、ごくりと唾をのむ。