「お母さん。急に呼びつけてどうしたんですか?」
「ごめーん、晴香を焚きつけたはいいけど、のめり込みすぎてないか心配になっちゃって……よかったら様子を見てきてくれない? あ、あとこのホットタオルを渡してあげて」

 ウィンクとともに手を合わせるお母さん。

「ご自分で行けばいいじゃないですか? どうして俺に……こっちも暇じゃないんですよ」
「なんとなく? ……行きたくないの?」
「はあ。わかりましたよ……って熱っ!?」

 受け取ったホットタオルが熱くて思わず声が出る。

「熱湯に浸したハンドタオルだし、多少はね」
「それを先に言ってくださいよ……」

 ため息をつきつつ、晴香の部屋に向かう足取りは軽い。

 なぜだろう。
 お母さんにはすべて見透かされているような気がする。
 ――俺自身も分かってない、心の奥まで。

 俺は、晴香の様子がもともと気になっていて、ただ、部屋のドアを開けるきっかけが欲しかったんじゃないか……?

 そんなことを思いながら、「晴香」のネームプレートがかかったドアをノック。
 反応がない。

「入っていいか?」

 声をかけてみた。
 反応がない。
 ためらいながらも扉をほんの少しだけ開けると、晴香がパソコンに向かっているのが見えた。

 こちらに気付きもせず、一心に画面を見つめている。

 カタカタ、カチ、カチ、とキーボードとマウスの音だけが部屋に響いていた。

 お絵描きではなさそうだから、Vモデルづくりをしているのだろうか。

 ……宿題を進めるために勉強会をすると決めたのに、この調子でずっとVモデルを作っていたのなら、かえって勉強時間が減っているのではなかろうか?

 突っ込む気持ちもないではなかったが、それ以上に。

 鬼気迫る、と言ってもいいその姿は。背中は。
 ふとした拍子に壊れてしまいそうで、――とても、綺麗だと思った。