そんなこんなで飲み物とかを持ってルームに入り、腰をおろす。
「今日すっごく付き合ってくれてるよね、ありがと」
そんなことを言いながら、今日のことを思い返す。
電車に乗るときも、絵になる景色を見つけるたびにフリーズする私をかなくんは引っ張ってくれた。
この駅についた私たちは、最初に専門店に行って、「こういうのがいいんです~」ってメモを見せながら、アドバイスをもらいつつ商品を選んだ。
店員さんとしゃべるのに私ひとりだと詰まることとか、お勧めされたのが何だかわからないときもあったけど、そのたびにかなくんがサポートしてくれたおかげでなんとかなった。
本屋だって迷子にならなかったし。
尊敬のまなざしでかなくんを見つめる。
「ん、今日の時間はぜんぶ晴香にあげるって決めてたから。彼氏っぽいことしてみた。……れ、練習がてら」
かなくんはいたずらが成功したみたいな笑顔だ。
……ちょっと照れ隠しも混じってる?
にしても、なるほどね。
今日の過保護に片足つっこんでる感じは、「ハルの彼氏かなくん」というVチューバーを演じてたんだ!
それじゃあ、と私もおどけて口を開く。
「それじゃー、彼氏っぽいこともうひとつお願いしちゃおっかな!」
「なに?」
「なんでもいいから歌ってみて?」
かなくんにマイクを向ける。
だって、これから歌ってみた出したいし……。
え? 打算的過ぎておねだり感ぶち壊し? そんなぁ。
そんなふうにセルフ突っ込みしていると、かなくんが言った。
「俺、曲のレパートリー少ないから歌ってほしい曲決めて先にいちど歌ってくれない? そしたら歌うよ」
えっ、それは、一回でも聞けば耳コピできる……と?
それさあ、ミスったのを耳コピしちゃったらまずいんじゃ?責任重大じゃん。
そんなことを思いながら、パネル?で曲を入れた。
マイクを持ち直す。
これから歌うのは、かなくんに歌ってほしい、かなくんの声に合いそうな歌だ。
私の声には合わないし、この曲の練習回数はわりと少ない。
けど。
♪~
魅せてやる。
ずーっと作業中いろんな人の歌を聞いてきて、どういうものが理想かはとっくの昔に割り出せているんだ。
理想を再現する技術だって、完ぺきとは言えないけど多少は身についている。
だって、必要な練習は積んできた。
どうやって必要な練習を見極めたかは……うん、私、天才だから。



