翌日、午前中。
部屋に晴香が押しかけてきた。
「あのさ、Vモデルのデザイン案ひとつできたんだけど、見てくれない?」
「分かった、にしても早いな」
「ラフ画だからね、希望聞く前だけど思いついたの描いちゃお! と思って、線も塗りもざっくりだけど描いたの。ごめんね?」
てへっ☆なんて声がつきそうな笑顔だ。
「希望思いつかなかったし全然、なんなら見てないけどそれでいいよ」
「それならよかった」
にひっと笑って、晴香は画面をこちらに見せる。
映るのは、ペアルックの男女。
「……っ……」
無意識に、身体がこわばる。
息がうまく吸えない。
ラフ画と、あいつの姿が、重なって見える。
嫌でもあいつを思い出す。
いつもの表情で苦しさを覆い隠し、晴香にバレないようにと強く願った。
「これはね、おしゃれ学生の私服姿をイメージして……ん、どした?」
けれど晴香は気づいてしまう。
「な、なんでもな……」
「ないわけないでしょ。変えようか?」
震える声での否定はあっさりと見破られた。
それでも、と首を横に振る。
「いや。それが晴香の理想なら、叶えたい」
「……それを聞いて、絶対変えなきゃって確信したね」
呆れ顔の晴香。
「なんでだよ」
「だって、苦しそうじゃん」
それがなんだっていうんだ。
「気にするなよ、そんなこと」
「そんなこと、って……!」
怒りすらはらんだ表情で、晴香はゆっくり目を閉じ、開いた。
「きみが苦しまないのも、理想のうちだよ」
「!」
自分のせいで、晴香が思い描いたものとずれてしまうのは、嫌だ。
けれど、晴香の理想に、俺の感情まで含まれているんだとしたら――
「わかった。一応言っておくと、こうなっている原因は、女性側のデザインがトラウマを刺激するからだから、そのつもりで」
晴香は首をかしげる。
「中性的にすればいいってこと?」
「いや、あの、この見た目がちょうどドンピシャ苦手なやつってだけだから……」
言葉のまとめ方に困っていると、晴香が納得顔でうんうん頷いた。
「今のものから離せってことね。りょーかい!」
ドタバタと部屋を出ていく。
あわただしい人だ。
戻ってきた。
「機材いろいろ買いたいけどどうすればいいかな? もとはとにかく安いやつ一択だったけど、叶方さんが出してくれるってなったから選択肢がぶわぁぁぁっと広がって、どうしよっかなって」
自然と笑みが浮かぶのを感じながら、いくつか思いついたアドバイスを言うと、また晴香は部屋へ戻っていった。
がんばれ、と少し他人事気味だが思う。
――なんて言うんだろう、晴香は応援される才能みたいなのがあるんじゃなかろうか。
部屋に晴香が押しかけてきた。
「あのさ、Vモデルのデザイン案ひとつできたんだけど、見てくれない?」
「分かった、にしても早いな」
「ラフ画だからね、希望聞く前だけど思いついたの描いちゃお! と思って、線も塗りもざっくりだけど描いたの。ごめんね?」
てへっ☆なんて声がつきそうな笑顔だ。
「希望思いつかなかったし全然、なんなら見てないけどそれでいいよ」
「それならよかった」
にひっと笑って、晴香は画面をこちらに見せる。
映るのは、ペアルックの男女。
「……っ……」
無意識に、身体がこわばる。
息がうまく吸えない。
ラフ画と、あいつの姿が、重なって見える。
嫌でもあいつを思い出す。
いつもの表情で苦しさを覆い隠し、晴香にバレないようにと強く願った。
「これはね、おしゃれ学生の私服姿をイメージして……ん、どした?」
けれど晴香は気づいてしまう。
「な、なんでもな……」
「ないわけないでしょ。変えようか?」
震える声での否定はあっさりと見破られた。
それでも、と首を横に振る。
「いや。それが晴香の理想なら、叶えたい」
「……それを聞いて、絶対変えなきゃって確信したね」
呆れ顔の晴香。
「なんでだよ」
「だって、苦しそうじゃん」
それがなんだっていうんだ。
「気にするなよ、そんなこと」
「そんなこと、って……!」
怒りすらはらんだ表情で、晴香はゆっくり目を閉じ、開いた。
「きみが苦しまないのも、理想のうちだよ」
「!」
自分のせいで、晴香が思い描いたものとずれてしまうのは、嫌だ。
けれど、晴香の理想に、俺の感情まで含まれているんだとしたら――
「わかった。一応言っておくと、こうなっている原因は、女性側のデザインがトラウマを刺激するからだから、そのつもりで」
晴香は首をかしげる。
「中性的にすればいいってこと?」
「いや、あの、この見た目がちょうどドンピシャ苦手なやつってだけだから……」
言葉のまとめ方に困っていると、晴香が納得顔でうんうん頷いた。
「今のものから離せってことね。りょーかい!」
ドタバタと部屋を出ていく。
あわただしい人だ。
戻ってきた。
「機材いろいろ買いたいけどどうすればいいかな? もとはとにかく安いやつ一択だったけど、叶方さんが出してくれるってなったから選択肢がぶわぁぁぁっと広がって、どうしよっかなって」
自然と笑みが浮かぶのを感じながら、いくつか思いついたアドバイスを言うと、また晴香は部屋へ戻っていった。
がんばれ、と少し他人事気味だが思う。
――なんて言うんだろう、晴香は応援される才能みたいなのがあるんじゃなかろうか。



