「君に花を贈る」番外編……各所の花壇にて

「理人、ファミレス行こう!」

 ホームルームが終わった瞬間、立ち上がった。前の方に座る理人に手を振ると、振り向いた彼は苦笑している。
 廊下に出て並んで歩いてたら、理人が小声で聞いてきた。

「菅野さん、今日の放課後補修は受けないんですか?」
「理人、補修必要?」
「……まあ、そうですね」

 今日の補修は自由参加だから、私たちには必要ない。
 でもそれ大声で言うと角が立つから、こそこそ話してる。
 そのせいで、入学してひと月くらいで付き合ってるって噂されてるけど、お互いの女避け・男除けで一緒にいるから問題なし。
 ファミレスで向かい合って、教科書をパラパラめくる。ドリンクバーで作ったモクテル飲みつつ、ケーキをつつく。

「……で、なにかあった?」

 理人が王子様みたいな顔を上げる。サラサラの前髪がふわっとなびいた。

「あのね、好きな人ができたの」
「じゃあ、男除けはもう不要?」
「ううん、それはお願い。警察官なの」
「……警察官?」

 好きな人の話をした。入学してすぐのトラブルと、それを助けてくれた警察官のこと。
 話し終えると、理人は困ってるような、笑い出しそうな、なんとも言えない変な顔した。

「……それ、藤乃さんに言った?」

 なんでそこで藤乃くんの名前出すのよ。

「言ってない」
「言わないの?」
「心配、かけたくないし」

 ちょっと不貞腐れた言い方になっちゃったら、理人が苦笑した。

「藤乃さんは、心配すらさせてもらえない方がよっぽど悲しいと思うけど」
「……わかってるよ」

 わかってるけど……言いたくないんだよ。藤乃くんの前じゃ、ずっと子どもでいたい。女っぽいとこなんて、絶対見せたくない。
 ……でも、そろそろ、潮時なのかも。

「言わなきゃ、ね」
「僕から言おうか」
「ダメ。自分で言う」

 モクテルを飲み干して、お代わり作りに行ったけど、失敗して変な味の色水みたいなのができた。理人に押し付けたのに、それすらおしゃれに見える理人、ほんとムカつく。