こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

 ずっと入口を探し続けてきたジーナは扉を開き期待と共に中に入った。

 地下迷宮の存在を知ったのはいつなのか分からない。

 自然と知っておりそこが龍の祭壇所にまで続いていることも知っていた。

 印が教えてくれた、とジーナは左頬を触れる。印は知っているのだ、この地下迷宮のことを。

 かつて龍を討つものはここに入ったことがあるからかもしれない。

 だが、それはいかなる理由でか? そもそもの話、討つものの始祖は中央に来ていたとでもいうのか?

 そうなのだろう、と物わかりの悪いジーナはようやくなにかが呑み込めるようになってきていた。

 かつてあなたはこの地において、龍を討った?

 ここで討ったからこそあなたはその名になったということなのか?

 するとあなたはかつてこの地において龍を討った、だけどもそれは誰のために?

 そして討ったのにどうして西へと行きその全ての記憶を封印した? 何故追放された?

 追放……とジーナは迷宮の入口付近で立ち止まる。

 自分は何故と考えるのだろうか、と。お前だって今は同じ状況ではないのか?

 思考を止めジーナは入り口から辺りを見渡す。地下だというのに仄暗いという段階で留まっているその光の加減。

 特殊な何かが使われているのか、足元は見え、奥行きも絶望的なまでには暗くはない。

 この暗さには覚えがあった。アリバの家のあの廊下の真の闇への通じるあの途中までの……いや、それよりもっと昔の記憶を引きずり出せる。私には、印には森の記憶があった。

 手を入れることを禁じられた封禁の森。ここに侵入するためにいまもかつての私はそこに潜み……いや、その記憶はない。

 森の記憶はあるが、そこは走る抜けたという感覚しかなかった。

 そう、あなたはこの入口から中には入ってはいない。入り見る光景に何も感じはしなかった。

 だから振り返り入口を、見る。そこには強烈な既視感が湧き、眩暈すら覚えた。

 あなたはこの入口を出ていった。ここを出口だとして森へと向かいその後に西へと行ったのだろう。

 するとあなたは、どこから入ったというのか? もしも逆だということは印の力が半分頼りにならないということでは?

 あなたはどこから来てどこへ行ったのか少し考えるも、だがジーナは勘を頼りに仄暗い闇へと足を進めて行った。

 ハイネから逃げ出した時から私は引き戻せなくなったのだろう。

 しかし、もとから引き戻るところなどどこにもなかったのだとジーナはまた思考を整理しだした。

 龍を討ちに西からここに来た。自分とはこれなのである、と。これでしかないのだと。それ以外に何があるのか?

 たとえあの時に逮捕され抑留されたとしても、それで以て自分が龍を討つことを諦めるとは有り得ないことだ。

 その抑留が数年であろうが数十年であろうが永遠であろうと、自分の意思は不変であり永遠であり、それは龍の意思をも超越する。

 必ずや龍を討つその時を待ち続けると。それ以外の生を私は知らない、その他の道を私は知らない……ではどうして引き戻せなくなることなど考える。

 実態がなくても、その言葉だけを考えた? 引き戻るところなど、どこにも無い。依然として何ひとつとしてない。

 ハイネは有るというだろう。言葉の限りを尽くし無限の優しさを以て私に訴えるも、この私にはそれを受け取る器というものがないのだ。

 その想いが水だとしたら私は合掌し水を汲むようにすることすらできずにそのくれる水を掌に当てることなく素通りさせ、床へと零すようなものなのだ。

 お前はずっとそれをし続けてきた。もういいのだ、もう。私はお前とは違うのだから……戻ることや引き返すこともなく私は歩くだけ。しかしどうしてこんなに焦っている? 心が緊張している?

 お前は思っていないか? 間に合わないのでは、と? 何にだ? 完全な龍となったら討てないとでもいうのか?

 鞘に手を当て剣を握ろうとするもジーナの手は腰の空を撫でた。剣を失ったのは、あまりにも痛い。

 あれはジーナの剣なのである。代々受け継がれ、たとえ龍との戦いで砕け散りまたは失われても、一欠けらや一部分を探し出し見つけ出し付け足し造り直し繋げてきたものである。

 過去歴代のジーナはいかなる時であろうとその剣で戦い続け、龍を討ってきた。

 また戦士達はその剣を持つものの指示によって戦ってきた。それがないのだ。

 武器はある。補助武器の短刀といった類のものなら二本。戦うことはできる。だが、龍と戦うとなると全くの不明となる。

 龍には武器は通じる、とジーナは過去の戦いから思い出すも、だがこのもし完全なる龍となってしまったらどうなるのか?

 剣があったら、とジーナは足を止め次の十字路を右へと曲がる。ここも勘であるが、壁といったものには当たらない。

 正解なのだろうがただしこれは自分のではなく印といったものの力なのだろうとジーナは思う。

 これが自分を急がせるものの理由のひとつなのだろう。剣なき今の自分は……だがそうではない、もうひとつある。

 あるのだ。しかしそれは印とは関係のない意思、自分という意思……余計な、捨て去らないといけない、雑音であるもの。

 ヘイムという記憶があるうちに、つまりヘイムの意思が龍の中にまだあるうちに……それがなんだというのだ?

「それがなんだっていうのだ?」

 薄い闇に向かってジーナは呟くも声は背景に溶けて消えていった。なんの、意味もないもの。

 お前はお別れでも言いに行くおつもりで? とジーナは頭の中で会話をしているようにやり取りをし出した。

 いつものことである。以前からの癖であるがハイネから逃げ出した後はもっと激しくしつこく、ふたつの人格が現れたように、分裂直前のように。

 また、左。とジーナは壁に手を置きながら通路を歩いて行く。罠も行き止まりもないこの道。今はないというだけのことなのか?

 それともこれからずっとないということなのか? そんなことは不明だ。けれども引き返せない、迷いながら考えながらも戻るようになっていない。

 流れる時のように二度と返ってこないそういう一切のもののように……

「ヘイムが生きているうちにならお前は龍を討てるのか?」

 ジーナは自分に問うも、答えはない。お前はいったいに何を考えている?

 侮蔑と共に思い問うも、答えはまた返らず足も止らない。止める必要などなく前に前へと進んでいく。

 足に迷いはなく身体に迷いはない。この脚は手といった一切は龍を討つためのものであり、それに捧げている。

 誰に? それはある意味で龍に捧げているのではないのだろうか? 命を奪い死を与えるために。龍を倒すために。

 それもまた龍への奉仕なのでは………思えば、あの元からいた龍は死に掛けていた。

 誰かが手を下さねばならぬほどに弱り果て、死を待つばかりであった。私はあの時に手を剣を振りあげた。

 あそこに憎しみや怒りはあったか? あったとしたらただ使命感のみ。

 ではこの先にいる呪龍に対して私は怒りを込め渾身の力で以ってあいつの身体にぶつかっていくのだろうか?

 行くのだろう。あれはジーナがその手で倒さなければならないもの。その為に全てを費やしてきた。

 私はあらゆる手で以ってあの龍を討つ、とジーナは頷くと同時に思う。ヘイムがまだいるというのにお前はできるのか?

 ジーナの足はここでようやく、止まる。迷宮に入った時から始まる思考の回転と共に回り続けてきた足はこの疑問に到着し、停止する。

 ヘイムをお前は討てるのか? かつてなら討てた、とジーナは壁を叩いた。何故怒る! とまた壁を叩いた。

 出会った時は討てた、とあの日のことをジーナは思い出した。その次の日も討てた。今度は記憶を回転しだした。

 その次の日もあの時もこの時もあらゆる時も、私はヘイムを討てた。龍ともどもに。

 剣を抜きあの身体を突き貫けば、何もかもが終わった。私には容易だ。どちらが本物かの判断など、いま思えば重大ではなかった。

 そうである、と思い込みたいところから来ている。お前は、気付いていた。あれの中に呪龍がいると。

 ヘイムの中にこそ呪龍がおりひとつになろうとしていることを。彼女がそれを受け入れていることを知っていた。

 一度だ、一度。膨大な機会の中で剣を抜こうとしたのは一度だけ。しかしその時は結局剣を納めてしまった。

 私は龍を討とうとしてはいない? 行動だけ見るのなら、そうだろう。

 幾度ともなく自らの自分の使命を言いきかせるのは、そうではないからなのか?

 私が自分がジーナではあると強調するのも、そうではなかったからと同じことだとしたら……そうだ、私は自分の意思でヘイムを龍を討たなかった、討てなかった。そうであるのにヘイムがいる間に龍を討ちに行こうと急ぐこの矛盾とは?

 いつもの矛盾だ。私というのはハイネが繰り返し訴えたように矛盾そのものなのだろう。

 私の中の論理は統一されないまま、ここまで来た。

 それはあの日、ヘイムに出会った日に私というものは千切れ砕け散ったまま、このジーナという名によって縄に縛られのようになんとかひとつになっているものに過ぎないのかもしれない。

 龍というものを二つのものに見てしまうもの。ひとつのものには見えなくなってしまったもの。

 だが……とジーナは歯を噛みしめ足に力を入れ、あげる。自分のではない身体を動かすような不自由で不自然な動きかた。

 それでも自分は……龍の元に行かなくてはならない。討つために。

 あえてジーナは歩かずに早歩きしだした。もう壁には手を添えずに前すらろくに確認せず半ば駆けていた。

 どうなろうともう、いい。考えることさえしなければ。行き止まりはなく、壁には突きあたらない。

 このように迷いながらも私は前に前に障害なく進み続けた。西からこちらに来てからずっとだずっと。

 私の道は一本。純粋なる一本道。このまま龍の元に。龍の元へ。

 呪龍は私を待っている。討ちに来ることを、待ち構えている。お前は気づいていた。私と一目見た瞬間に、気づいた。

 あの日の私だと。しかもジーナと混ざった私だと。眼孔の奥は疼いたか? 無い指に痛みは走ったか? 曲がった脚は痺れたか?

 お前には殺意があった。そうだあの時はお前も私を討てることができた。

 あの時だけではなく、その後も何度も何十回も無限の可能性の如くにお前は私を殺す命令も追放する命令も、出せた。

 それをしなかったのは中央の龍を討たせるためか? そのために私をずっと生かし戦わせたのか?

 私はそうだと思っていた。今もそう思っている。そう思いたかった。

 だがこれも裏返せば……自分の心理を裏返しにして見れば……私をただ、討ちたくなかったということなのでは?