あの人がどう私を見ようとしても、だ。とジーナは頭を振った。
「ところで当時の龍の嫁の候補者はどのくらいいたのですかね」
「そこまでは知らん。そもそも候補者が誰なのかは名誉のため伏せられるし公開などせんだろう。だが多くは無いはずだ。龍祖様は身近なものを希望していたとのことらしいからな。そこは今回も変わらんが。龍というのは身内への情が篤い、そういうことだ」
「身内といえばルーゲン師もそうですし、今回もまた身近な人となるようですね」
「ようやくというところだ。正直なところまさかこうなるとは俺は思いも寄らなかった。対抗馬足りえる候補者など事実上他にはいなかったというのにここまでもつれるとはな。龍身様がなにを考えているのかは俺などには分かる由もないがギリギリになってお決めになられたのは謎だ。もっと早く決定していただければ皆の心配を払拭できたというのに、そこだけは龍身様の不可解な点ではあったがな」
喜びから苦渋へと行ったり来たりのバルツの表情を眺めながら言った。
「ここも龍身様の御意志というよりかはシオン様が反対し続けたとかではありませんか?」
「そうかもしれない。彼女は後見人で反対する権利を有している。ルーゲン師とシオン嬢は表面上は問題なしだが俺の見たところシオン嬢はルーゲン師に心を許してはいない。龍身様がずっと説得をし続けやっと叶ったというところか。長かったがこれでようやく結ばれるわけだ。ずっと両想いであったのにこんなにこじれるとは大変なもんだ」
ジーナは身を乗り出した。
「ずっと……そうなのですか?」
聞かれたバルツは声をあげて笑い出した
「ハハッ! 実にお前らしい反応だ。たとえどんなに近くにいても分からないものには分からず、どんなに遠くにいても分かるものには分かるというものだ。これもまたお前は気づいていないだけだ、そういうことだ。ソグの龍の館の頃から龍身様は体調も回復されたのか生き生きとしだし庭にも出るようになった。そのように導いたのは全てルーゲン師だった。まさしく導くものの御仕事であるな。こうやって龍身様の左手をとり導いていくルーゲン師の御姿を昔に一度だけ見たが、龍身様の笑顔がとても美しくてな。あれで俺は確信を得たものだ。龍身様はルーゲン師をお選びになるはずだとな」
これが龍の力か、とジーナはそれを目の当たりにした。もうそういうことになっているのかと。
身を乗り出したまま固まり呆然となった表情のジーナをバルツは驚いた。
「おいおいなんだその顔は。そんなに驚くほどのことか? いったいお前はいつも何を見ていたのだ?」
……だけを見ていた、とジーナは心の中で答えた。右側を、そう、ヘイムだけを、見ていた。
そうだ私はルーゲンとは違うものを見続けていた……もとから違うのだ。
ただあの人は私のそこを勘違いして……そしてあの人の存在を……
「いえ。私も龍身様がルーゲン師のことだけを見ていたのは分かっておりました。ただそれがそのようなことであるとは全く」
「にわかには信じがたい言葉であるが、お前が言うのであれば俺は納得ができる。龍の儀式は龍と人とが初めての顔合わせを行い、そこで完成し、新たなる治世の時代が始まるというものだ。この龍と人の世界はそうやってなりたっているものなのだ」
ジーナは立ち上がった。もう、動かなければならない、と全身に力が湧いてくるのが分かった。
「バルツ様。もうお時間でしょう」
「お前は俺の時間についてなど、そんなことを気にしなくていい。それともお前がなにかあるのか?」
「申し訳ありません、ハイネが待っているものですから」
敢えてそう言うとバルツの身体が強張り、眼が泳ぐのをジーナは確認した。
「おお……そうかそうか」
だからジーナは確信した。
「儀式が始まる前に会って話をしたいと約束させられましてね。これはバルツ様とはもうご相談済みでしょうが、きっとそこでハイネは私に西方に言って貰いたいという話をするのでしょう」
「……そうだ。そういうことになっている」
瞳を動かすのをやめたバルツは真っ直ぐに視線を合わせながら言った。
「ただこれだけは分かってもらいたい。これはハイネ嬢から言われたからでもなく、また俺がハイネ嬢に言ったからでもない。俺達二人の共通の思いがそれだ。俺達はただそのことが一つだけなのだ」
「そうであるのならバルツ様。私もただ一つなのです。あなたに出会った頃からそして今に到るまで一つのことしか言いません。私は龍に会い、それから故郷に帰ると。順番を変えることはできない。たとえあなたであってもハイネであっても」
ジーナは龍の休息所の方向へ、顔を向けて言った。
「そして龍であってもです」
「ところで当時の龍の嫁の候補者はどのくらいいたのですかね」
「そこまでは知らん。そもそも候補者が誰なのかは名誉のため伏せられるし公開などせんだろう。だが多くは無いはずだ。龍祖様は身近なものを希望していたとのことらしいからな。そこは今回も変わらんが。龍というのは身内への情が篤い、そういうことだ」
「身内といえばルーゲン師もそうですし、今回もまた身近な人となるようですね」
「ようやくというところだ。正直なところまさかこうなるとは俺は思いも寄らなかった。対抗馬足りえる候補者など事実上他にはいなかったというのにここまでもつれるとはな。龍身様がなにを考えているのかは俺などには分かる由もないがギリギリになってお決めになられたのは謎だ。もっと早く決定していただければ皆の心配を払拭できたというのに、そこだけは龍身様の不可解な点ではあったがな」
喜びから苦渋へと行ったり来たりのバルツの表情を眺めながら言った。
「ここも龍身様の御意志というよりかはシオン様が反対し続けたとかではありませんか?」
「そうかもしれない。彼女は後見人で反対する権利を有している。ルーゲン師とシオン嬢は表面上は問題なしだが俺の見たところシオン嬢はルーゲン師に心を許してはいない。龍身様がずっと説得をし続けやっと叶ったというところか。長かったがこれでようやく結ばれるわけだ。ずっと両想いであったのにこんなにこじれるとは大変なもんだ」
ジーナは身を乗り出した。
「ずっと……そうなのですか?」
聞かれたバルツは声をあげて笑い出した
「ハハッ! 実にお前らしい反応だ。たとえどんなに近くにいても分からないものには分からず、どんなに遠くにいても分かるものには分かるというものだ。これもまたお前は気づいていないだけだ、そういうことだ。ソグの龍の館の頃から龍身様は体調も回復されたのか生き生きとしだし庭にも出るようになった。そのように導いたのは全てルーゲン師だった。まさしく導くものの御仕事であるな。こうやって龍身様の左手をとり導いていくルーゲン師の御姿を昔に一度だけ見たが、龍身様の笑顔がとても美しくてな。あれで俺は確信を得たものだ。龍身様はルーゲン師をお選びになるはずだとな」
これが龍の力か、とジーナはそれを目の当たりにした。もうそういうことになっているのかと。
身を乗り出したまま固まり呆然となった表情のジーナをバルツは驚いた。
「おいおいなんだその顔は。そんなに驚くほどのことか? いったいお前はいつも何を見ていたのだ?」
……だけを見ていた、とジーナは心の中で答えた。右側を、そう、ヘイムだけを、見ていた。
そうだ私はルーゲンとは違うものを見続けていた……もとから違うのだ。
ただあの人は私のそこを勘違いして……そしてあの人の存在を……
「いえ。私も龍身様がルーゲン師のことだけを見ていたのは分かっておりました。ただそれがそのようなことであるとは全く」
「にわかには信じがたい言葉であるが、お前が言うのであれば俺は納得ができる。龍の儀式は龍と人とが初めての顔合わせを行い、そこで完成し、新たなる治世の時代が始まるというものだ。この龍と人の世界はそうやってなりたっているものなのだ」
ジーナは立ち上がった。もう、動かなければならない、と全身に力が湧いてくるのが分かった。
「バルツ様。もうお時間でしょう」
「お前は俺の時間についてなど、そんなことを気にしなくていい。それともお前がなにかあるのか?」
「申し訳ありません、ハイネが待っているものですから」
敢えてそう言うとバルツの身体が強張り、眼が泳ぐのをジーナは確認した。
「おお……そうかそうか」
だからジーナは確信した。
「儀式が始まる前に会って話をしたいと約束させられましてね。これはバルツ様とはもうご相談済みでしょうが、きっとそこでハイネは私に西方に言って貰いたいという話をするのでしょう」
「……そうだ。そういうことになっている」
瞳を動かすのをやめたバルツは真っ直ぐに視線を合わせながら言った。
「ただこれだけは分かってもらいたい。これはハイネ嬢から言われたからでもなく、また俺がハイネ嬢に言ったからでもない。俺達二人の共通の思いがそれだ。俺達はただそのことが一つだけなのだ」
「そうであるのならバルツ様。私もただ一つなのです。あなたに出会った頃からそして今に到るまで一つのことしか言いません。私は龍に会い、それから故郷に帰ると。順番を変えることはできない。たとえあなたであってもハイネであっても」
ジーナは龍の休息所の方向へ、顔を向けて言った。
「そして龍であってもです」


