龍の休憩所というものがある。中央の城の後方に位置する森のなかにあるその施設。
龍となるための最終儀式が行われる神聖なる御所。頂上にて儀式その約束の時を静かに待っている。
そこに到るまでには延々と連なる階段があり、登り続けると天まで行こうかというその途中の真ん中ほどに広い踊り場が現れる。
ここが名を由来である龍の休憩所であり、龍身が途中で休むための居住空間なのである。
「ジーナ、焦らなくていいですからね。遅くても良いですからゆっくりと自分だけの力で持って登って来て下さい」
優しいのだか厳しいのだか不明な激励の言葉を下で聞きながらジーナは階段を一歩一歩登っていく。その背には土を入れた袋が二つ。
「一つずつでもいいのですよ。その代り行きと戻りが二倍になるだけですけど」
ここもまた慈悲なのか容赦ないのかよく分からない言葉を受けてからジーナは二つを持つことにしたが、どのみち苦労は変わらないと感じた。
「リハビリですよリハビリ。大丈夫ですよ私がこうして見守っていますから」
何が見守りだ何の役にも立っていない、これは監視だと階段の上で座るハイネを見上げながら思うも、下手なことを言うのはやめにし一段一段と階段を登る。
見上げるとハイネが身動きをせずにジーナを見ておりジーナもまた顔をあげハイネを見上げた。
近づくにつれてハイネの顔が見えはじめる。その表情は暗い光を放っているためかよく見えないが一段登っていく毎に暗さが晴れていき、徐々にジーナが分かってきたことはハイネが微笑んでいるということであった。
しかしそれは目の錯覚で邪心によって表情が歪んでいるためにそう見えるのかもしれない。
目を逸らすことをせずにそのまま登り続け踊り場に到着をするとハイネは立ち上がった。
「お疲れさまですジーナ」
「楽しそうだなハイネ」
やっと視線を外しながらジーナは答え歩く。
「はい楽しいですよ」
屈託もない明るい声がし驚いたもののジーナは右横を振り向かない。見てはならないなにかがいるはずなのだから。
「あなたが苦しんでいる顔を見るのはとても楽しいです。せいせいする」
今まで聞いたことのない言葉であるためにジーナは怖くなり隣を見られない。闇がとぐろをまいていそうである。
「いつも私を苦しめている人が苦労しているのを見るのは、愉快かつ愉悦を覚えます」
苦しめている……? それは違うとやっとハイネへ振り向くと、眼が合った。振り返った時に目の位置がそこだと完全に分かっているように正確無比に目を合わせ、言ってきた。
「ハイネさんが勝手に苦労しているだけだろ、と言いたいのですよねジーナは」
なんで分かった?
「なんで分かった? と思いましたね。分かりますよ、だって眼がそう言っていますから。あなたってすっごくわかりやすくてすっごくわからない。はいそうですね勝手に苦労していますよ。私の思うが侭に、です」
瞳の赤い夕陽の中にジーナは心が入っていきそうになり意識という足を止めた。そう足を止め考えるのを止め、感じるのを止めないといけない。
「そんなことはもうやめろ、と言ったらどうです?」
急に止まったのに一歩も前にでずに同時に止ったハイネが聞いてきた。
音も止まり静寂も来た。だが赤い夕陽は美しさを放つのを止めなかっためにジーナは目を逸らそうとしたが、逸らせないことにも気付いた。
眼も止まったのか? と思うよりも前に感じた。逆に今は心だけが動いているのではないだろうかと。だから口に出すよりも先に、思った。
「私がそう言ったら従うのか?」
「お伺いする前に実際に言ってみたらどうですか? いいえ思うだけでもいいですよ」
囁かれジーナの心から出たものは言葉ではなく暗いなにかであった。冷たく痛く、苦く酸っぱいなにか。
ハイネが思えと言うからそれが出た、なんてこの女は酷いのだろうか、とそれしか思えない。
「私について過酷すぎないか」
「私について過酷すぎませんか?」
なんだそのオウム返しは。
だって近づいている心なのですから。
ほらもっと私の眼を見てください。分かりますよ
分からない
全部、分かっている癖に
あなたはただ、分かりたくないだけです
……自分の瞳がいまどんな色しているか、知っています?
……教えましょうか?
龍となるための最終儀式が行われる神聖なる御所。頂上にて儀式その約束の時を静かに待っている。
そこに到るまでには延々と連なる階段があり、登り続けると天まで行こうかというその途中の真ん中ほどに広い踊り場が現れる。
ここが名を由来である龍の休憩所であり、龍身が途中で休むための居住空間なのである。
「ジーナ、焦らなくていいですからね。遅くても良いですからゆっくりと自分だけの力で持って登って来て下さい」
優しいのだか厳しいのだか不明な激励の言葉を下で聞きながらジーナは階段を一歩一歩登っていく。その背には土を入れた袋が二つ。
「一つずつでもいいのですよ。その代り行きと戻りが二倍になるだけですけど」
ここもまた慈悲なのか容赦ないのかよく分からない言葉を受けてからジーナは二つを持つことにしたが、どのみち苦労は変わらないと感じた。
「リハビリですよリハビリ。大丈夫ですよ私がこうして見守っていますから」
何が見守りだ何の役にも立っていない、これは監視だと階段の上で座るハイネを見上げながら思うも、下手なことを言うのはやめにし一段一段と階段を登る。
見上げるとハイネが身動きをせずにジーナを見ておりジーナもまた顔をあげハイネを見上げた。
近づくにつれてハイネの顔が見えはじめる。その表情は暗い光を放っているためかよく見えないが一段登っていく毎に暗さが晴れていき、徐々にジーナが分かってきたことはハイネが微笑んでいるということであった。
しかしそれは目の錯覚で邪心によって表情が歪んでいるためにそう見えるのかもしれない。
目を逸らすことをせずにそのまま登り続け踊り場に到着をするとハイネは立ち上がった。
「お疲れさまですジーナ」
「楽しそうだなハイネ」
やっと視線を外しながらジーナは答え歩く。
「はい楽しいですよ」
屈託もない明るい声がし驚いたもののジーナは右横を振り向かない。見てはならないなにかがいるはずなのだから。
「あなたが苦しんでいる顔を見るのはとても楽しいです。せいせいする」
今まで聞いたことのない言葉であるためにジーナは怖くなり隣を見られない。闇がとぐろをまいていそうである。
「いつも私を苦しめている人が苦労しているのを見るのは、愉快かつ愉悦を覚えます」
苦しめている……? それは違うとやっとハイネへ振り向くと、眼が合った。振り返った時に目の位置がそこだと完全に分かっているように正確無比に目を合わせ、言ってきた。
「ハイネさんが勝手に苦労しているだけだろ、と言いたいのですよねジーナは」
なんで分かった?
「なんで分かった? と思いましたね。分かりますよ、だって眼がそう言っていますから。あなたってすっごくわかりやすくてすっごくわからない。はいそうですね勝手に苦労していますよ。私の思うが侭に、です」
瞳の赤い夕陽の中にジーナは心が入っていきそうになり意識という足を止めた。そう足を止め考えるのを止め、感じるのを止めないといけない。
「そんなことはもうやめろ、と言ったらどうです?」
急に止まったのに一歩も前にでずに同時に止ったハイネが聞いてきた。
音も止まり静寂も来た。だが赤い夕陽は美しさを放つのを止めなかっためにジーナは目を逸らそうとしたが、逸らせないことにも気付いた。
眼も止まったのか? と思うよりも前に感じた。逆に今は心だけが動いているのではないだろうかと。だから口に出すよりも先に、思った。
「私がそう言ったら従うのか?」
「お伺いする前に実際に言ってみたらどうですか? いいえ思うだけでもいいですよ」
囁かれジーナの心から出たものは言葉ではなく暗いなにかであった。冷たく痛く、苦く酸っぱいなにか。
ハイネが思えと言うからそれが出た、なんてこの女は酷いのだろうか、とそれしか思えない。
「私について過酷すぎないか」
「私について過酷すぎませんか?」
なんだそのオウム返しは。
だって近づいている心なのですから。
ほらもっと私の眼を見てください。分かりますよ
分からない
全部、分かっている癖に
あなたはただ、分かりたくないだけです
……自分の瞳がいまどんな色しているか、知っています?
……教えましょうか?


