こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

 否定するのも嘘になるしとジーナの口は重かった。

 嘘はもとから嫌いだが、ことにルーゲン師には嘘や誤魔化しはしたくない気持ちがジーナには何故かあった。

 すぐに見抜かれそうなという点もあるが、どうしてかというのは彼自身にも分からないことであったために、そのままのことを言うことにした。

「なんだか、その彼女の名前は聞きたくない気分でして」

「へぇ、もしかしてフラれたとか?」

「そんなことは!あ……」

 反射的に声をあげるとルーゲンが笑顔となったので勢いそのままにジーナは開き直った。

「私達はそういう関係で無いのでそういうのはありません。それで、ハイネがいったい何だというのですか?」

「怒らないでくれジーナ君。というか僕は別に君を怒らせて遊んでいるのではなくて、君が勝手に怒って自滅しているという感じなのだから落ち着いてもらいたい」

 本当にその通りだとジーナは自覚していたために混乱しながらも落ち着くために息を吸った、だが。

「この間の定期便でハイネ君から僕に手紙が来ましてね、これです」

 ルーゲンが懐から手紙を取り出し机に出すとジーナの眼は驚きで見開いた。

「二人は手紙のやり取りをしているのですか?」

「おぉ……なんとジーナ君の口からそんな声が出るのですね」

 えっとジーナは手で口を抑えたがすでに遅かった。声はもうルーゲンの耳の中に収まってしまったのだから。

「なんですそれ? どういう声ですか?」

「僕には説明できませんね。君は自分の声だから分かるのでは?」

「分かりませんよ。自分の声は自分ではよく分からないものじゃないですか」

「それを言うのなら自分の心もそうではありませんか? 他人から見てもらい話してもらうことで、はじめて分かるものも多々あるのでは」

 また難しいことを言われジーナは困惑して思った。いまのルーゲン師は嫌いだなと。

「手紙ですけど君のことが書かれていてね。だからこうして持ってきたのですよ」

「私の悪口でもかいてあるとか?」

「そんな告げ口なんて書いておりませんって。だいたいハイネ君はそんな性格の悪い娘ではありませんよ」

「ルーゲン師の前だと性格の良い子なのでしょうが、私の前だとそういうのではありません」

「ほぉ、するとハイネ君は性格が良ろしくないとても悪い娘だと、君は言うのですね」

 ジーナは言葉が詰まり腹の底が重くなった。むしろ自分の方がルーゲン師に悪口を言い、告げ口をしているのでは?

 ルーゲンの雌雄眼がこちらを見つめている。今の言葉は過ちであると言っているように。

「いえ……若干そういうところはあるだけでして、その遠慮がなさすぎるということで」

「そこは僕も分かります。君と一緒の時のハイネ君は楽し気ですよね。あれは気を許しているとか心を開いているとは感じられませんか?」

「開き過ぎです。少しは閉めて欲しいとも思いますよ」

「今度言われては如何ですか? お嬢さん、襟が開いていますよと」

「ハイネは第一ボタンまで閉める女ですからその比喩は通じませんでしょうね」

 冗談になったのかルーゲンは笑い出し酒のおかわりを店員に頼んだためにジーナは急いで自分も飲み干した。

 いつのまに、というよりかは弱いというかかなり呑むことに驚いていた。これは強めの酒であるのに。

「あの、それで手紙には何と書かれているのですか? 悪口でないとしたら……想像がつきません」

「それは自虐的なまでの想像力の欠如ですね。悪口でないのなら逆の褒め言葉、善口ですよ。あまり聞かない言葉ですがこれです。では読みますよ……ルーゲン師へ。私はジーナのことが」

「待った!」

 ジーナは椅子から立ち中腰の状態でルーゲンの手紙に手を掛けていた。その先は駄目だ、言わせてはならない、というよりも

「書いていませんよね、そんなことは」
「どうしてそう思います?」

 不思議そうに尋ねてきたのでジーナは出鼻をくじかれるも、なお前に出た。

「だって、その、なにか、おかしい、そうおかしいのです。ハイネがそんなことを」

 言う、とジーナの頭が小さく震えた。言おうとした。止めさせなかったら、言った。

 その際のあれを、ジーナの唇は熱を甦らせ、その感触とハイネを思い出させた。だからジーナは言った。

「書くはずがないし第三者に言うはずもないのです」

 あなたは嘘をついていると言われているのにルーゲンは笑顔のまま聞きかえした。

「心を開いているということじゃないですか」
「裸ですよこれ!」

 剣幕に慄いたのではなくルーゲンは失笑と咳込みで顔を背け、敗北を認めたように手を前に出した。

「いやいや止しましょう。そこまで言われてしまうとは申し訳ない。僕としては彼女の名誉を傷つける気はありませんので冗談はやめます。軽いジョークのつもりが重いジョークになりましたが、訂正して気を取り直していきましょうか。えーと、そう手を離して貰って椅子に座り直してください。では、いきます。飛ばし飛ばしで要点を中心にして読みますよ」

 空咳をひとつしてからルーゲンは読み出した。

 「ルーゲン師へ。龍身様宛のジーナの手紙が届いたのですがシオン様も加わり一緒に読みました。ジーナ視点から見たルーゲン師の姿が面白くてみんな楽しんでいました。寒いのでジーナの傍らで眠ろうとしたりとあの遠慮がちなルーゲン師がやけに距離感が近めなアクションに、みんな意外さを感じていまして……さてジーナ君。書いちゃいましたね」

「……はい」

 声の語調こそ変わらないまでも叱責の流れからかジーナは自然に頭を垂れ、そしてあの記述が誤りであったことをいまさらに気が付いた。

「今日の僕はどこか意地が悪かった理由も、分かりましたね」

「分かりました。申し訳ありませんでした」

 全てを了解しなおも頭を下げていると液体が注がれる音がして、グラスが鳴った。

「では、許します。仲直りの一杯をここで呑み交わしましょう」

 頭をあげるとルーゲンが杯を手にし待っていた。ジーナは慌てて新しい杯を持ち上げ、交わし呑みだした。

 違う味の酒、もっと強い酒の味が舌を痺れさせ暴れながら内臓に収まっていき、込み上がる酒気が口から洩れた。

「実のところ怖い声を出しましたけれども、それほど僕は怒ってはいませんのでご安心ください。手紙の様子から向うの方々には好評そうでしたからね。ハイネ君はいつも事務的な内容が多い手紙しか出してきませんが今回はその点でいつもよりも大きく違いましたね。続きを読みますとこう来ますね。ジーナはルーゲン師ルーゲン師とまるで恋人のように呼んでいるのがみんな面白がっていまして、龍身様なんて二人はそういう関係なのか? とお疑いになりますので違いますよと私は説得する羽目になりましたが誤解は解けたようです。任務中の臨場感抜群の勇気溢れる冒険譚はジーナの書き方もあってかすごく面白かったのですけど、ジーナの眼はすぐにルーゲン師に行き視点がフラフラしていてなんだか浮気性である意味でとても彼っぽくて微笑ましかったです。次の手紙もひょっとして龍身様が私達にも読ませてくれるかもしれませんので彼にはその点をよくよく言いきかせてください。ジーナはルーゲン師のいうことはよく聞きますので頼りにしています。それとできれば彼には私宛の手紙も書くように伝えてください。龍身様だけに書いて私に書かないってそれってなんだか不平等じゃないですか?」

「いや、そこの部分は書かれてはいないはずです」

 ジーナが急にツッコミを入れだしたためルーゲンは驚いて読むのをやめた。

「どこでしょうか?」

「すっとぼけた声を出してからに。その最後の私にも手紙を出して云々は書かれてはいないはずです。そういうことをハイネは口に出して言わないし誰かに間接的に頼んで依頼する女でもありません」

「ばれましたか。そうです底の部分は僕の創作ですよ、お見事です」

 嘘をついたというのにルーゲンの表情は爽やかでありそれに満足気でもあるように見えた。

「ジーナ君はハイネ君のことをよく理解していますね。こちらの引っ掛けに二度も掛からずにきちんと反論している。これは意外なことですよ。この君が女性の心理をきちんと酌んでいるだなんて」

「女の心なんてわかりません。私はただハイネの事だけはなんとなく推察ができるということでして」

「完璧かつ十分ですよ。それで君はそこまで分かっていながら、どうしてその心に応えてあげないのでしょうか?」

 どうしてだ? とジーナは自分と少し違う声が心の中で響くのを聞いた。そんなのは分からないことなのに。誰もが、聞く。

「わざと期待に応えず焦らして自分の傍から離れさせない、そういった悪女的な手法でも用いているのでしょうか?」

「そんな馬鹿な。私は東の女のような色恋沙汰の駆け引きなんてできませんよ。西はもっと簡素で真っ直ぐです。そういう世界で私は育ったのですから、そんな手法など知りません」

 抗弁は虚しくルーゲンは首を左右に小さく振る。

「君が知らないだけで西の女だってそういうことをしていますよ」

「いやいやそんなことは」

「女は東西南北やることは同じですって。東西南北の男はそんな女の態度にウロウロしているのですよ。君が知らないというのはつまりは……する方だったのではありませんか?」

 まさかそんな、とジーナは言おうとしたが

「知らなくても出来る人には自然にできるのです。そう自然にです、何気なくそうやっている君がそうだ。しかも目的もなく、それを楽しまず、むしろ互いを苦しめてね……それにしてもあれですよ一つ良いことでありますけど」

 ルーゲンは杯を持ち一口つけたのでジーナも釣られて持ち上げる。

「ジーナ君が、女の方でしたら、相当に恐ろしかったでしょうね」