「すみませんが、知人を待たせているんです。これで失礼します」
私の前に立ちはだかるようにしていた課長を避けて足を踏み出したけれど、すぐに右手を掴まれてしまう。
その瞬間、肩が大きく跳ね、全身が強張った。
「どうしてメッセージを無視するんだ? あんなに可愛がってやったのに」
怒りと恨みがこもったような声音だと感じたのは、私の考えすぎかもしれない。
けれど、本能が頭の中で警鐘を鳴らしている。
「っ、離してくださいっ……!」
振り向きながら全力で手を振り払うと、中郷課長は油断していたのか手が離れた。
すると、課長が私を睨みつけた。
「おい——」
「那湖?」
身が竦んだ刹那、ロビー側から名前を呼ばれた。
その声が誰のものなのか考えるよりも先に、不安と恐怖が和らいでいく。
「侑李さん……」
「遅いから心配した」
近づいてきた侑李さんは、中郷課長から距離を取らせるように私の手を取って体を引き寄せる。
侑李さんを近くに感じた時には、安心感が芽生えていた。
「辻山さん、僕はこれで。また連絡するよ」
まだ落ち着き切っていない心臓が嫌な音を立てていた私に、中郷課長がにこやかな笑みを向ける。
その表情は、会社で見ていた〝いい上司〟だった時のものだった。
立ち去る課長の背中を見ながら、ホッと息をつく。
私の前に立ちはだかるようにしていた課長を避けて足を踏み出したけれど、すぐに右手を掴まれてしまう。
その瞬間、肩が大きく跳ね、全身が強張った。
「どうしてメッセージを無視するんだ? あんなに可愛がってやったのに」
怒りと恨みがこもったような声音だと感じたのは、私の考えすぎかもしれない。
けれど、本能が頭の中で警鐘を鳴らしている。
「っ、離してくださいっ……!」
振り向きながら全力で手を振り払うと、中郷課長は油断していたのか手が離れた。
すると、課長が私を睨みつけた。
「おい——」
「那湖?」
身が竦んだ刹那、ロビー側から名前を呼ばれた。
その声が誰のものなのか考えるよりも先に、不安と恐怖が和らいでいく。
「侑李さん……」
「遅いから心配した」
近づいてきた侑李さんは、中郷課長から距離を取らせるように私の手を取って体を引き寄せる。
侑李さんを近くに感じた時には、安心感が芽生えていた。
「辻山さん、僕はこれで。また連絡するよ」
まだ落ち着き切っていない心臓が嫌な音を立てていた私に、中郷課長がにこやかな笑みを向ける。
その表情は、会社で見ていた〝いい上司〟だった時のものだった。
立ち去る課長の背中を見ながら、ホッと息をつく。



