契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~

「綺麗だ。本当によく似合ってる」


 甘く低い囁きが、鼓膜をそっとくすぐる。
 これでドキドキするな、という方が無茶だ。
 心臓が早鐘を打つ中、私は頬から顔全体に広がった熱を隠すように俯いた。


「このまま歩いて行こうと思うんだが、大丈夫か?」


 きっと、ヒールを穿いている私を気遣ってくれているのだろう。
 それはありがたいのに、恥ずかしさで侑李さんの顔を見られないまま頷くことしかできなかった。


「じゃあ、行こうか」


 左手を取られ、歩き出す。
 大きな手の温もりにドキドキして。同じくらいの安心感も覚えて、そのままホテルに向かった。
 道中、特に会話はなかったけれど、おかげで少しずつ平静を取り戻せていく。
 冷たい夜風が火照った肌を冷やしてくれ、ホテルに着いた頃にはどうにか頬の熱は引いていた。


 パーティー会場は、外資系のラグジュアリーホテル。
 言わずと知れた老舗ホテルだけれど、入るのは初めて。
 三十九階建ての外観もさることながら、広々としたロビーを見ただけでも雰囲気に呑まれて足が震えてしまいそうになった。


 フロントを通り過ぎ、エレベーターに乗り込む。
 指紋ひとつない鏡に映る侑李さんと私の姿を見て、本当に大丈夫なんだろうか……と改めて不安が蘇ってきた。


 彼からは、『出会いはそのまま、あとは俺からアプローチしたことにしよう』と事前に言われている。
『嘘の中に真実を混ぜる方が信憑性が増すから』と……。
 けれど、少なくとも今日の出席者全員を騙すくらいでいないといけないのだと思うと、どんどん心配事ばかりが頭に浮かび始めた。