契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~

「あの……リビングも掃除をして構いませんか?」
「ああ。俺のことは気にしなくていい」


 そう言われて返事をしたものの、私がフローリングや窓をくまなく掃除をする間、何度も視線を感じてしまう。
 なんだか、研修後の試験を受けている時のような気持ちになった。
 どうにか気にしないように努め、キッチン周りの掃除も終わらせたあと、乾燥が終わった洗濯物を片付けていく。


 リビングに戻ると、彼は同じ位置にいた。
 ふと、その横顔に疲労感が滲んでいることに気づく。
 そういえば、今日は何度か息を深く吐く様子もあったし、いつにも増して疲れているのかもしれない。


「コーヒーかお茶でも淹れましょうか?」
「じゃあ、お茶を頼む。ありがとう」


 笑顔で「わかりました」と答え、すぐに温かい緑茶の準備をする。
 小さめのマグカップに淹れて侑李さんの前に置くと、彼は優しい眼差しを私に向けてお礼を口にした。


「では、私は買い出しに行ってきますね。なにか食べたいものはありますか?」
「いや、辻山さんに任せるよ」


 名前の呼び方で、侑李さんなりの線引きを感じる。
 そこに深い意味があるのかはわからない。
 ただ、ここ最近彼に『那湖』と呼ばれることに慣れてきていた私は、少しだけ寂しさを抱いてしまった。


 こんな気持ちを、侑李さんには気づかれたくない。
 そう思って早々にリビングを出たのに、すぐに彼が後を追ってきた。