契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~

 十九時五十五分。
 櫻庭さんの家で待機している私の耳に、玄関のドアが開く音が届いた。
 身の置き場がないような気持ちでいた私を包む緊張感が、グッと強くなる。


「おかえりなさい」


 ソワソワしながら出迎えた私に、彼もまた気まずそうに「ああ」と頷いた。


「待たせてすまない。話は食べながらしよう」


 櫻庭さんがそう言いながらキッチンカウンターに置いたのは、保温性がありそうなバッグ。
 小さめのトートバッグタイプのそれには、店名らしき英字が綴られていた。


「頼んでおいた夕食がちょうど届いたから、下で受け取ってきたんだ」


 キッチンで手を洗う彼を見ながら相槌を打ちつつ、どこにいればいいのかわからなくてカウンターの前で待つ。


「飲み物はお茶と水、どっちがいい?」
「あっ、私が……」
「いや、いい。今は仕事じゃないんだ。普通に客として過ごしてほしい」


 ここぞとばかりに手伝おうとしたけれど、櫻庭さんにあっさり制されてしまう。
 しかも、『客として過ごしてほしい』なんて難題を突きつけられた。


 私にとって、この家は仕事先のひとつ。
 依頼された家事をして、それが終われば早々に会社に戻る——そういう場所だ。
 お客さんとして訪れるどころか、仕事の一環で足を踏み入れる家であることが心身に染みついている。
 だからこそ、ダイニングチェアにもソファにも座れずにいるというのに……。