契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~

「はじめまして、辻山と申します。侑李さんがいつもお世話になっております」


 顔にどうにか笑みを繕い、会釈をする。
 ただ、嘘が苦手な私には荷が重くて、一刻も早くこの場から離れたくなった。


「はじめまして、浅間です。私の方こそ櫻庭くんにはお世話になってます。……では、私はこれで」


 浅間さんは皺が刻まれた目尻をわずかに下げると、複雑そうな微笑を残してドアが開いたエレベーターに戻っていった。
 浅間さんと交代でエレベーターから降りてきた人とたちの視線が刺さり、直後に注目を浴びていたことに気づく。
 エレベーターホールの正面にあたる突き当たりには、受付。
 スーツ姿の人の中には弁護士バッジをつけた男女もいるし、カフェがあるからか一般客らしき人を含めて人目が多い。


「あ、の……」
「那湖、こっちへ」


 私が口を開いた瞬間、櫻庭さんが私をエレベーターホールの隅に引っ張った。
 腰に添えられている手はそのままに、顔が近づいてくる。


「コンシェルジュに話を通しておくから、今夜うちで待っていてほしい。たぶん八時には帰れる。デリバリーでも頼んでおくから一緒に夕食を摂ろう」


 ドキッとした直後、そう囁かれた。
 恐らく、こうなった事情を話そうということ。
 それはすぐにわかったけれど、今の私は彼との距離が近いことにドキドキしすぎて思考が上手く働かず、深く考えるよりも先に頷いていた。