「ただいま」


 南阿佐ヶ谷駅から徒歩十分の1DKのアパートに、小さな声が吸い込まれていく。
 心細くなっている時の一人暮らしは、こんな些細なことですら寂しさを連れてくる。
 ため息をついて手を洗い、胸の下まで伸びている髪を纏めてメイクも落とした。
 タオルで顔を拭いてから、鏡を見てみる。


 母譲りの二重瞼の目は微かに淀み、小さめの鼻はいつにも増して頼りなさげだ。
 厚くも薄くもない唇は、リップを落としたことで血色が消えた。
 周囲から童顔だと言われ続けてきた顔からは、冴えない雰囲気が漂っている。
 艶のあるラベンダーブラウンの髪だけが、私から浮いていた。


「……ダメだ。とりあえずなにか食べよう」


 空腹だとろくなことを考えないと、大人になってから学んだ。
 疲れている時や睡眠不足の時も、然り。
 今の私には全部当てはまるから、まずはお腹を満たそうとキッチンに行った。


 冷凍うどんをレンジで解凍し、その間に適当に残り野菜を切っていく。
 熱々のうどんを冷水で締めて切った野菜と一緒にお皿に載せ、めんつゆと刻んだ大葉をかけると、五分ほどで即席のサラダうどんが完成した。


 ベッド脇のローテーブルの前に座り、両手を合わせてお箸をつける。
 喉越しがよく冷たいうどんは、暑さで体力が奪われていても食べやすい。
 あっという間に完食すると、麦茶で一息ついた。