進路指導室で、愛を叫んで

 冬になると三年生は授業がなくなるけど、先輩は朝だけ来て、一緒に水やりをしてくれる。

 会える日がどんどん減っていって、俺から先輩に言えることなんて何もなくて。

 毎朝、手を振って別れるたびにちょっと泣いては、由紀にからかわれた。

 今日も校門から昇降口に向かう途中、追いついてきた由紀に、つい泣き言をこぼしてしまう。


「無理……つらい……」

「バカだな須藤は。そうなるのわかってるんだから、入れ込まなきゃいいのに」

「それも無理。一日一回会わないと心が空っぽになる」

「気持ち悪いな、ほんと。先輩が卒業したら、どうするんだ?」



 ……ほんと、どうしよう。

 でも俺は先輩に好きだとは言えない。

 この一年、先輩の顔を見るたびに

「今日もかわいい先輩に会えてうれしいです」

「先輩は今日もきれいですね」

「俺は先輩の笑顔を見に学校に来てます」

 なんて、犬がじゃれつくみたいに、ひたすら先輩に言い続けた。

 でも、肝心なことは言えない。

 だって、俺は実家を継がなきゃいけないから。

 先輩には先輩の夢があって、俺が告白することで、それを邪魔したくなかった。


「……どうもしないよ」


 覗き込んでくる由紀に首を振って、靴を履き替える。


「先輩に、俺と夢を天秤にかけさせるようなこと、したくない。まあ……仕方ない。俺が一人でめそめそして済むなら、それでいいよ」

「割り切って一年だけ付き合うとかしときゃよかったのに」

「やだよ。ていうか無理。俺、粘着質だから、一度手に入れたら手放せない」

「不器用だねえ」

「下手くそなだけだよ」