進路指導室で、愛を叫んで

 母さんから車の鍵を受け取って荷物を置きに行く。

 花屋に向かう前に、母さんと先輩が車に戻ってきた。


「帰るわよ」

「うん。あ、先輩、どうぞ」


 先輩を乗せて、俺も乗る。

 車が、いつもより勢いよく走り出した。


「冬一郎の部屋が空いてるから、桐子さんにはそこを使ってもらいましょう。小春、帰ったらまず掃除して。それと、お風呂も先に沸かしておいてね」

「わかった」

「服は持っているのよね? 足りない分は秋絵が置いていったのを使えばいいわ。下着はある? それは足りなければ休みの日に買いに行きましょう。あとは……」


 母さんは淡々と俺と先輩に指示を出す。

 家に帰って、母さんは花屋に、俺と先輩は家に向かった。


「どうぞ」

「……お邪魔します」

 おずおずと足を踏み入れる先輩に、俺はできるだけ優しく声をかけた。

「今日から先輩の家になるから、ただいまって言ってくれると嬉しいです」

「……ただいま」

「おかえりなさい、先輩。こっちです」


 納戸から掃除機を出して担ぐ。

 階段を上がって、一番奥の部屋の扉を開けると、思ったよりもきれいだった。

 ……兄貴が家を出たあとも、たまに掃除してるんだろう。

 先輩に入り口で待っててもらって掃除機をかける。

 ……先輩に、兄貴の使ってたベッドをそのまま使わせるの、ちょっと嫌だな。

 隣の部屋の秋絵姉のベッドマットと交換する。


「お待たせしました。ちょっとほこりっぽいけど、先輩の部屋です」

「……わざわざ個室まで用意してもらって……申し訳ないです」

「うちの子になるなら、当たり前です。須藤家にはそれくらいの甲斐性あるから、気にしないでください」


 わざとらしく明るく言うと、先輩は、やっと安心したように微笑んでくれた。


「あ、風呂湧かすように言われてたの忘れてた。先輩、ちょっと待っててくださいね」