FF〜私があなたについた嘘〜


 大学構内、練習会場

ト書き 
 合宿に行く、数日前。松本とブンブンが会話している ……のを遠巻きにしている、モブ達と誌香
 

モブB「お! だすけとブンブンだ」
モブC「ほんとだ! あいつら、仲いーよなー」
誌香「そりゃ部長で指揮者と、ステマネだもん。色々と相談事はあるでしょうよ」

モノローグ:誌香
 私は一生懸命、二人きりである事の正当性を探そうとする。

ト書き
 松本に群がるモブ達

モノローグ:誌香
 松本は面倒見がいいし、みんな彼に相談を持ち掛ける。

ト書き
 進行表を見ながら舞台袖で指示出しをするブンブン

モノローグ:誌香
 一方のブンブンだってステージマネージャーとして、来るべき演奏会に備えて賛助楽器の手配とか指揮者との打ち合わせが必要なんだ。
 決して松本がブンブンと二人っきりになりたいから、じゃない。……多分。

ト書き
 ヒソヒソ話すモブ達。だが声が大きい

モブD「……俺。だすけとブンブン。この前、二人で歩いてる処見ちゃった」

モノローグ:誌香
 私の動きが止まる。
 だすけ、と松本は主に男子から呼ばれている。

誌香「二人だけで?」

モノローグ:誌香
 私の知らない処で? そりゃ、私は二人のスケジュールを朝から晩まで把握している訳じゃない、けど。
 今まで、そんな事はなかった筈だ。それとも、私が知らなかっただけで、二人で出かけてるの? 

モブB「うっそ、マジ! どこでだよ」
モブC「あのさ……」

モノローグ:誌香
 素知らぬ顔でメンバーの横を通り過ぎようとしたら、呼び止められてしまった。

モブA「おう、デカフジ」

モノローグ:誌香
 あああ、やっぱりかー。自分の運のなさを呪いたくなる。

ト書き
 モブ達、ニヤニヤしている。

モノローグ:誌香
 この後の展開が予想できたから、声掛けないで欲しかった。観念しする。

誌香「……なに」
モブA「あいつら、やばくね? どうよ、ヨメとしてはさ」

モノローグ:誌香
 ……ブンブンはよく、私の事を『うちのヨメ』呼ばわりしてくるのだ。何がどうして『ヨメ』認定なのか、わからないけど。サークルで一人だけ『ふーちゃん』と私を呼んでくれる彼女だから、悪い気はしていなかった。

誌香「さあ?」

モノローグ:誌香
 こっちが知りたいよ。私はそう思いながらも、無関心なフリをして返事をした。

ト書き
 ブンブンと松本から遠ざかろうとする誌香。行くてを阻む、モブ達

モブD「お前なら知ってんだろ。三人の中で誰と誰がくっついてるんだよ」

 モノローグ:誌香
 ……三人というのは。私が行く処に、何故かブンブンがついてきて。気が付くと松本が合流している、というのがパターンのことで

ト書き
 モブ達下世話な好奇心から目をキラキラさせている。誌香、チベットスナギツネ状態

モブC「もしかして3Pか?」
誌香「余計なお世話」

モノローグ:誌香
 3Pでも、二人の間にまざりたいよ!

ト書き
 さも、用事があるフリをして練習会場から出た誌香。ほっとした途端、思いついた顔


誌香「……そうか」

モノローグ:誌香
 漸く理解した。
 松本は、そうやってブンブンの傍に居ようとしたんだ。

ト書き
 茫然とする誌香

モノローグ:誌香
 今までも女子Aと歩いていると、さりげなくA子を好きな男子が追いついてきた。
 何時の間にか私は二人の後を追いながら歩く、という構図を何度も経験してきた筈なのに。
 松本が私にも普通に話し掛けてくれるから、ブンブン狙いのついでだとは気づいていなかった。

モブ達「どうするよ、二人が付き合っちゃったら! やばいんじゃね、本妻と2号との戦いっ」

ト書き
 追いついてきたモブ達。パパラッチのように眼が爛々と輝いてる。

誌香「付き合おうがどうしようが、二人の自由でしょ」

ト書き
 素っ気ない誌香にモブ達、ブーイング。しかし、諦めない

モノローグ:誌香
 二人がくっつこうが、私にはどうする事も出来ない。遠くから、二人がイチャイチャしているのを、気にしないフリをする事位しか。

ト書き 
 腕を組み足を肩幅に広げると、モブ達を睨む誌香

誌香「大体、『本妻と2号』て何よ。ブンブンの本妻は私。2号なんて許さないし!」
モブ達「だよなあ」

ト書き
 モブ達はゲラゲラ笑いながら、何処かへ行ってしまった。
 後ろ姿を見送りながら、立ち尽くす誌香

モノローグ:誌香
 ふと思う。
 二人が付き合いだしたら、ううん。付き合ってる事をカミングアウトされちゃったら。私は今まで通り、二人とバカ言ったり呑みに行けるだろうか。

ト書き
 幸せそうな松本とブンブンがいちゃついている前には誌香がいる

ト書き
 青ざめる誌香

誌香「私の化けの皮、剥がれちゃわないかな」

モノローグ:誌香
 一瞬、サークルを辞める事も考えたが、ゼミが一緒だ。

ト書き
 弱々しい表情になりつぶやく。

誌香「……私。『松本なんて、何とも思っておりません』て嘘をついたまま、卒業までやり過ごせるのかな……」

モノローグ:誌香
 自分に訊いても、答えは返ってはこなかった……。