柱
大学構内、部室(奥に窓。天井から吊り戸棚=楽譜、メトロノームなど=両壁にはずらりと楽器、譜面台や足台を入れたケース。中央に大きなテーブル。テーブルを挟んで両脇にベンチ)モブ男子ABがすでにベンチに座っている。
モブA「おおーぅ。だすけとデカフジが一緒とは、怪しいなあー」
モノローグ:誌香
部室に向かうと、既に集まっていたメンバーに揶揄われた。
ト書き:
内心飛び上がってはしゃいでいる誌香、表面上はチベットスナギツネ
モノローグ:誌香
松本と噂されるなんて、夢みたい! ……舞い上がりそうになって、すぐに沈んだ。私じゃない子を好きな松本には、迷惑だ。だけど、ここで必死になって否定すると、余計にからかわれる。
ト書き:
呆れ果てた、という誌香の表情
誌香「あんたら、小学生か」
ト書き:
誌香、吊り戸棚の空いている場所にバックを詰め込む。
弁当だけもつと誌香は奥に座る。
モノローグ:誌香
部室は十人も入れば、キツキツになる。先に到着した奴らから奥へと詰めていくルールだ。お弁当だけ持って、私も出来るだけ奥へと進もうとした。
モブB「えー。だけど、ツルんで来るってことはさぁー」
ト書き:
うんざりした表情の誌香
モノローグ:誌香
しつこい。最近『誰それがくっついた』ネタがないから、無理矢理盛り上がろうとしてるんだろう。
私はうんざりした声音にならないように気をつけた。
誌香「外れ。授業が一緒、コンビニが一緒、部室まで一緒だっただけ」
ト書き:
誌香がそっけなく言い捨てると、モブ男子達が不服そうに唇を尖らせた。
モブA「ちぇー、色気ねえの」
モブB「仕方ねえよ、相手デカフジだもん」
ト書き:
内心、痛かった誌香。しかし表面上は冷たい表情のまま。
モノローグ:誌香
咄嗟に胸に握りこぶしを抱きしめたくなったが、堪えた。
ト書き:
下ろしていた手は握り拳になり、震えている。
モノローグ:誌香
私は173cmだ。ヒールを履くと、そんじょそこらの男子よりも大きくなってしまう。『デカイ藤代』、略して『デカフジ』。入部して以来のニックネームだから、慣れなきゃいけないのに。
……慣れた筈なのに、そう呼ばれるのはやっぱり痛い。
ト書き:
ばかにしたような表情を浮かべる誌香
誌香「ハイハイ、そこのぼくちゃん達。おねーさんより小さいからってヒガまないの。文句言う前に、とっとと大きくなりましょうねー」
モノローグ:誌香
傷ついた事を悟られたくない。
ト書き:
からかってきた男子の頭を、わざとナデナデしてあげた誌香。
すると身長が低い事を気にしていたのか、モブAは誌香を睨みつけてくると乱暴に彼女の手を払いのけた。
モブA「セクハラだぞ、お前っ」
モノローグ:誌香
どっちがだよ。
先に”デカフジ”って言っておいて、自分だけ傷ついたつもりなんだ。
ト書き:
内心怒りと不満。でも顔は揶揄うニヤニわ笑いのまま。
モノローグ:誌香
理不尽だ。
なんで男子は『大きい』が褒め言葉だと思っているんだろう。
ト書き:
モブABに対して、怒っている自分を想像する誌香。
モノローグ:誌香
『胸だって身長だって、大きい事がコンプレックスな女子って沢山いるんだよ!』そう言ってやりたい。
だからってそれを言ってしまっては、駄目なのだ。サークルという小さな世界がギスギスしてしまう。
ト書き:
我慢する誌香。後ろから彼女を見つめている松本
モノローグ:誌香
私だって、大きく生まれたかった訳じゃない。
出来れば、ブンブンみたいに可愛い女の子に生まれたかった。
……松本の大好きな、ブンブンのように。155cm位で胸もDカップ位はあって、レースとフレアースカートが似合う子。
ト書き:
我慢できなくなった誌香が口を開こうとした瞬間、松本が口を挟む。
松本「だったら、お前らも藤代にセクハラしたろーが」
モブB「なんだよ、『デカイ』って言っただけだろ」
モノローグ:誌香
まるっきり、自分の罪に気づいてないソイツは、平然と言う。
ト書き:
松本の後ろから到着した文も加勢する。
ブンブン「なら、ふーちゃんだって、田中君に『小さい』って言っただけでしょ」
ト書き:
内心、ほっとする誌香。にっこりと余裕の笑みを浮かべる。
誌香「援護射撃、サンキュ。でも、別に気にしていないから」
モノローグ:誌香
嘘だ。
本当は気にしまくっているのに、気にしないフリをしている。背が伸びて胸が大きくなってから、私は嘘を沢山つくようになった。へらへらと笑っていないと、世の中渡っていけない。私みたいなデカい女は、ブンブンのように素直な感情表現をする事を求められていないのだ。
ト書き:
高身長、グラマーで大人びたファッションのヒールがあるブーツを履いている女性
モノローグ:誌香
斜に構えて、クール。誰よりも経験が無いのに、大人のフリ。それが、私がここで演じている役割だった。
モブA「ちぇー」
ト書き:
モブAB、多勢に無勢で引き下がる。
ブンブン、松本をスルーして部室に入ってきて、ブンブンが誌香の腕に手を絡める。
ブンブン「ふーちゃん、待ってたんだよ。席とっておいたから!」
誌香「ラッキー」
ト書き:
ウキウキ、きゃっきゃな誌香とブンブンがベンチに座る。
大学構内、部室(奥に窓。天井から吊り戸棚=楽譜、メトロノームなど=両壁にはずらりと楽器、譜面台や足台を入れたケース。中央に大きなテーブル。テーブルを挟んで両脇にベンチ)モブ男子ABがすでにベンチに座っている。
モブA「おおーぅ。だすけとデカフジが一緒とは、怪しいなあー」
モノローグ:誌香
部室に向かうと、既に集まっていたメンバーに揶揄われた。
ト書き:
内心飛び上がってはしゃいでいる誌香、表面上はチベットスナギツネ
モノローグ:誌香
松本と噂されるなんて、夢みたい! ……舞い上がりそうになって、すぐに沈んだ。私じゃない子を好きな松本には、迷惑だ。だけど、ここで必死になって否定すると、余計にからかわれる。
ト書き:
呆れ果てた、という誌香の表情
誌香「あんたら、小学生か」
ト書き:
誌香、吊り戸棚の空いている場所にバックを詰め込む。
弁当だけもつと誌香は奥に座る。
モノローグ:誌香
部室は十人も入れば、キツキツになる。先に到着した奴らから奥へと詰めていくルールだ。お弁当だけ持って、私も出来るだけ奥へと進もうとした。
モブB「えー。だけど、ツルんで来るってことはさぁー」
ト書き:
うんざりした表情の誌香
モノローグ:誌香
しつこい。最近『誰それがくっついた』ネタがないから、無理矢理盛り上がろうとしてるんだろう。
私はうんざりした声音にならないように気をつけた。
誌香「外れ。授業が一緒、コンビニが一緒、部室まで一緒だっただけ」
ト書き:
誌香がそっけなく言い捨てると、モブ男子達が不服そうに唇を尖らせた。
モブA「ちぇー、色気ねえの」
モブB「仕方ねえよ、相手デカフジだもん」
ト書き:
内心、痛かった誌香。しかし表面上は冷たい表情のまま。
モノローグ:誌香
咄嗟に胸に握りこぶしを抱きしめたくなったが、堪えた。
ト書き:
下ろしていた手は握り拳になり、震えている。
モノローグ:誌香
私は173cmだ。ヒールを履くと、そんじょそこらの男子よりも大きくなってしまう。『デカイ藤代』、略して『デカフジ』。入部して以来のニックネームだから、慣れなきゃいけないのに。
……慣れた筈なのに、そう呼ばれるのはやっぱり痛い。
ト書き:
ばかにしたような表情を浮かべる誌香
誌香「ハイハイ、そこのぼくちゃん達。おねーさんより小さいからってヒガまないの。文句言う前に、とっとと大きくなりましょうねー」
モノローグ:誌香
傷ついた事を悟られたくない。
ト書き:
からかってきた男子の頭を、わざとナデナデしてあげた誌香。
すると身長が低い事を気にしていたのか、モブAは誌香を睨みつけてくると乱暴に彼女の手を払いのけた。
モブA「セクハラだぞ、お前っ」
モノローグ:誌香
どっちがだよ。
先に”デカフジ”って言っておいて、自分だけ傷ついたつもりなんだ。
ト書き:
内心怒りと不満。でも顔は揶揄うニヤニわ笑いのまま。
モノローグ:誌香
理不尽だ。
なんで男子は『大きい』が褒め言葉だと思っているんだろう。
ト書き:
モブABに対して、怒っている自分を想像する誌香。
モノローグ:誌香
『胸だって身長だって、大きい事がコンプレックスな女子って沢山いるんだよ!』そう言ってやりたい。
だからってそれを言ってしまっては、駄目なのだ。サークルという小さな世界がギスギスしてしまう。
ト書き:
我慢する誌香。後ろから彼女を見つめている松本
モノローグ:誌香
私だって、大きく生まれたかった訳じゃない。
出来れば、ブンブンみたいに可愛い女の子に生まれたかった。
……松本の大好きな、ブンブンのように。155cm位で胸もDカップ位はあって、レースとフレアースカートが似合う子。
ト書き:
我慢できなくなった誌香が口を開こうとした瞬間、松本が口を挟む。
松本「だったら、お前らも藤代にセクハラしたろーが」
モブB「なんだよ、『デカイ』って言っただけだろ」
モノローグ:誌香
まるっきり、自分の罪に気づいてないソイツは、平然と言う。
ト書き:
松本の後ろから到着した文も加勢する。
ブンブン「なら、ふーちゃんだって、田中君に『小さい』って言っただけでしょ」
ト書き:
内心、ほっとする誌香。にっこりと余裕の笑みを浮かべる。
誌香「援護射撃、サンキュ。でも、別に気にしていないから」
モノローグ:誌香
嘘だ。
本当は気にしまくっているのに、気にしないフリをしている。背が伸びて胸が大きくなってから、私は嘘を沢山つくようになった。へらへらと笑っていないと、世の中渡っていけない。私みたいなデカい女は、ブンブンのように素直な感情表現をする事を求められていないのだ。
ト書き:
高身長、グラマーで大人びたファッションのヒールがあるブーツを履いている女性
モノローグ:誌香
斜に構えて、クール。誰よりも経験が無いのに、大人のフリ。それが、私がここで演じている役割だった。
モブA「ちぇー」
ト書き:
モブAB、多勢に無勢で引き下がる。
ブンブン、松本をスルーして部室に入ってきて、ブンブンが誌香の腕に手を絡める。
ブンブン「ふーちゃん、待ってたんだよ。席とっておいたから!」
誌香「ラッキー」
ト書き:
ウキウキ、きゃっきゃな誌香とブンブンがベンチに座る。



